25日、日本陸上競技連盟は都内で会見を開き、8月の世界選手権モスクワ大会に出場するロード5種目(男女マラソン、男子競歩20キロ、同50キロ、女子競歩20キロ)の代表選手15名を発表した。女子マラソンは3月の名古屋ウィメンズマラソンで派遣設定記録を突破し、優勝した木良子(ダイハツ)、同3位の野口みずき(シスメックス)と、大阪国際女子マラソンで2位に入った福士加代子(ワコール)の3名を、一方の男子は“最強の市民ランナー”の川内優輝(埼玉県庁)、ロンドン五輪6位入賞の中本健太郎(安川電機)ら5名を選出した。競歩の代表は、内定基準である派遣設定記録をクリアし、各競技大会で優勝をした男子20キロの鈴木雄介(富士通)、同50キロの谷井孝行(SGHグループさがわ)を加えた計7名が決まった。マラソンは最大各5名、競歩は各3名の出場枠があるが、追加や補欠は選出しない見通しだ。
(写真:会見でポーズをとる代表選手。左から鈴木、木、谷井)
「リオデジャネイロ五輪に向けて、新たなスタートを切るのにふさわしい陣容であり、今後の強化の方向を示す選考だと思っています」
 日本陸連の尾縣貢専務理事は会見で胸を張った。今回の代表選考では、日本陸連が新たに派遣標準記録を上回る設定記録という条件を設けていた。そのためこの日の発表までに内定を決めていたのは、女子マラソン1名、男子競歩20キロ1名、同50キロ1名と計3名にとどまった。他の12名については、設定記録をクリアをしてはいないものの、選考会での結果を基に選ばれた。

 選考された選手に大きなサプライズはなかった。だが、女子マラソンでは2枠、男女20キロ競歩では1枠ずつと、最大出場枠を使い切らなかった。これには日本陸連の「世界で戦える選手を」という思いがある。中でも女子マラソンでは、かつてはメダル争いをして、“お家芸”とも言われていた。しかし、近年は五輪、世界陸上の3大会でメダルなし。北京、ロンドン五輪では入賞者も出せなかった。尾縣専務理事は、選考から漏れた選手に対しては「派遣設定記録(2時間23分59秒)から乖離していた」と語り、入賞を狙えるレベルではないと選出されないという「引き締めの意味もあった」と明かした。
(写真:選考から漏れた選手に「今後は積極的なレースを期待したい」とエールをおくった尾縣理事)

“お家芸”復活に向け、木、野口、福士の3名に絞られた女子マラソン代表にかかるプレッシャーは大きい。中でもマラソン代表で唯一、設定記録をクリアした木には期待が集まる。本人も正式に代表に選出されたことで「身の引きしまる思い」と襟を正した。

 木は会見でモスクワ行きの切符を手にした名古屋ウィメンズを振り返り、「ロンドン五輪での経験が無駄ではなかったことを実証できた」と語った。ロンドン五輪では16位。世界との差を痛感したという。自分の弱点である腹筋の弱さ、左右の腕の振りのバランスを補う努力をした。

 まず補強トレーニングや練習量を増やした。左腕の振りを右と同じように振れるように、生活面で左手を使うことを心がけた。1カ月で箸は普通に使える程度になったという。「少しずつの積み重ねが、名古屋での結果に出た」と、左右のバランスが出てきたことにより推進力が増し、走りに粘りが生まれた。それは名古屋ウィメンズの終盤でのスパートでも見てとれた。
(写真:「1人1人のプレッシャーはあるんですけど、心強い先輩たちがいる」と語る木)

 世界陸上での目標を木は、タイムでは自己ベスト(2時間23分34秒)更新をあげ、順位では「最低限入賞を目指したい」と語った。ロンドン五輪で成し遂げられなかった入賞。「スタートラインに立った時に実績がなくて、不安を持ったままのスタート。気持ちで負けていました」と振り返る敗戦だった。世界での借りは世界で返すしかない。本人も「次のオリンピックに出られるかはわからない。狙える時に狙っておきたい」と話した。

 一方の男子マラソンは、川内、中本ら最大の5名が選ばれた。選考会で派遣設定記録(2時間7分59秒)をクリアしたものは1人もいなったが、全員が8分台をマークしている。川内、前田和浩(九電工)、堀端宏行(旭化成)、藤原正和(Honda)は選考レースでいずれも日本人トップの成績。別府大分マラソンで川内に敗れ、2位の中本健太郎(安川電機)。選考では、びわ湖毎日マラソンで日本人2位の山本亮(佐川急便)との争いになったが、ロンドン五輪入賞(6位)と選考レースで優勝を争いをした内容で、中本に軍配が上がった。

 競歩では、男子20キロの鈴木に上位進出の期待がかかる。世界選手権は3度目の出場。前回の大邱大会では、8位入賞を果たしている。ロンドン五輪では36位に終わったものの、今年に入って調子を上げている。2月の日本選手権では日本記録を13年ぶりに更新。さらに3月の地元・石川で行なわれた全日本競歩能美大会では、30秒近く自らの日本記録を塗り替えた。叩き出した1時間18分34秒は今シーズン世界歴代2位である。本人も「昨年までは120%の力を発揮しなければ、入賞やメダルが届かなかった。でも、今年のタイムや調子で言えば、現状の力を出し切れば、メダル獲得の自信がある」と、確かな手応えを口にした。
(写真:ロード種目でメダルを期待される鈴木)

 以下代表選手は次のとおり。

◇男子マラソン◇
前田和浩(九電工)
堀端宏行(旭化成)
川内優輝(埼玉県庁)
藤原正和(Honda)
中本健太郎(安川電機)

◇女子マラソン◇
木良子(ダイハツ)
福士加代子(ワコール)
野口みずき(シスメックス)

◇男子競歩20キロ◇
鈴木雄介(富士通)
西塔拓己(東洋大)

◇男子競歩50キロ◇
谷井孝行(SGHグループさがわ)
荒井広宙(自衛隊体育学校)
森岡紘一朗(富士通)

◇女子競歩20キロ◇
淵瀬真寿美(大塚製薬)
大利久美(富士通)