18日、世界陸上選手権モスクワ大会最終日が行われ、男子400メートルリレーはジャマイカ代表が今シーズン世界最高の37秒37で3連覇した。アンカーを務めたウサイン・ボルトは、今大会3冠。世界選手権で獲得した計8個目の金メダルは歴代最多タイとなった。一方、日本代表は38秒39で6位。2大会ぶりの入賞を果たした。女子400メートルリレーはジャマイカ代表が41秒29の大会新で制した。シェリーアン・フレイザー・プライスは女子初の3冠となった。今シーズン世界最高の18メートル04を記録したテディー・タムゴ(フランス)、女子やり投げのクリスティーナ・オベルグフォル(ドイツ)、同800メートルのユニス・サム(ケニア)はいずれも初優勝。男子1500メートルはアスベル・キプロプ(ケニア)が連覇を達成した。
 男子短距離陣、更なるレベルアップを

 男子400メートルリレーは、今大会“過去最強”とも謳われた日本代表だったが、エースの山縣亮太(慶應義塾大)が負傷離脱するなど、暗雲が立ち込めていた。そのムードを振り払ったのは、やはり“最速の高校生”桐生祥秀(洛南高)だった。

 予選では強豪の米国、ウクライナ、フランスに加え、進境著しい中国が同居する第2組に入った。内側2レーンに入った日本の1走はチーム最年少で初出場の桐生。表情には若干の硬さがあったが、走りにそれは見られなかった。勢い良く飛び出すと、上位で藤光謙司(ゼンリン)にバトンを渡した。

 山縣の代役として、第2走者を任された藤光は「山縣の分まで悔いのない走りを」とバックストレートを駆け抜けた。続く第3走の高瀬慧(富士通)に繋いだ。高瀬はカーブきついレーンながら、200メートルが本職だけに優れたコーナーワークで走った。

 最後はアンカーの飯塚翔太(中央大)。ロンドン五輪でもアンカーを務めた4継の大黒柱は、米国のジャスティン・ガトリンと競り合いながら2着でゴールイン。38秒23のシーズンベストを叩き出した。上位2着までは自動通過できる予選で、きっちりと順位での決勝進出を決めた。

 そして約2時間後に迎えた決勝。最終日最終種目、この大会のフィナーレとなった。日本は予選と同じ桐生、藤光、高瀬、飯塚というメンバー構成で挑んだ。今度は大外8レーン。予選と比べてカーブが緩くなるため、好記録も期待できる。

 スタート直前で「JAPAN」の名がコールされると、桐生は観客を煽るように飛び跳ねた。静寂の後、号砲が鳴ると、スタートのリアクションタイムは0秒147と予選より上げて、この組2番目の速さだった。ジェット桐生は好発進したが、バトンパスで少しもたついてしまう。

 藤光、高瀬とつないで、アンカーの飯塚がバトンを受け取った時には、前には各国のエース級がズラリ。個人レベルでは決してトップクラスと言えない日本にとっては、厳しい状況だった。最後の直線を飯塚が必死に駆け抜けたが、7着に入った。レース後、3位の英国が失格となり、順位はひとつ繰り上がったが、タイムは38秒39と予選よりも落としてしまった。

 優勝はジャマイカ。ライバルの米国と第3走者まで競っていたが、米国のアンカーのジャスティン・ガトリンへのバトンで手こずっている間に、ボルトが完全に抜け出した。伝説の男にすれば、十分すぎるアドバンテージだった。そのまま1着で駆け抜け、今シーズン世界最高のタイムで制した。ジャマイカはこの種目3連覇となった。ボルトは2大会ぶりの短距離3冠を達成し、世界選手権8個目の金メダルを獲得。カール・ルイス、マイケル・ジョンソン(いずれも米国)というレジェンドと肩を並べた。

 日本は6位入賞で、2009年のベルリン大会ぶり7回目の入賞を果たした。個人種目では100メートルの桐生、山縣が予選敗退。200メートルは飯塚が準決勝止まりで、高瀬と小林雄一(NTN)は予選落ちだった。個人での世界との差を考えれば、まずまずの結果と言えるだろう。バトンパスもまだ完璧ではないが、やはり優先課題は「次は自分の個の力を強くして、貢献したい」と桐生が語ったように“個の力”だろう。その先に37秒台の日本記録更新や、決勝レースで強豪国と伍する世界が見えてくる。

 日本、目標達成 地元ロシアは面目躍如

 ロンドン五輪で“惨敗”に終わった日本陸上界。今大会は、日本陸上競技連盟が定めた「メダル1、入賞5」のノルマを達成した。いわば「メダル1、入賞4」だった前回大邱大会を超えることが、目標だった。今大会で獲得したメダルは1個。女子マラソンでの福士加代子(ワコール)の銅メダルのみだった。入賞は7個。女子はマラソンの木崎良子(ダイハツ)、1万メートルの新谷仁美(ユニバーサルエンターテインメント)の2人がそれぞれ4位、5位に入った。男子はハンマー投げの室伏広治(ミズノ)、棒高跳びの山本聖途(中京大)、競歩20キロの西塔拓己(東洋大)、マラソンの中本健太郎(安川電機)、男子400メートルリレーと4人と1チームが入賞を手にした。

 中でも若い世代が躍動した競歩と棒高跳び。順位はともに6位で、その種目での世界選手権過去最高成績を収めた。20歳の西塔、22歳の山本とロンドン五輪で悔しい思いをした2人が結果を残した。

 アフリカ勢に押されていた長距離も健闘した。男女マラソンはともに入賞以上。女子は福士が2大会ぶりにメダルを獲得し、木崎も4位。男子の中本も上位争いを展開し、5位に入った。そして女子1万メートルでは、新谷がラスト1周までレースを引っ張った。マラソン強国復活へ明るい兆しとなった。

 一方、地元開催となったロシアは7個の金メダルを手にし、世界選手権における開催国の最多獲得金メダル数を記録した。得意のフィールド種目で4個、競歩で2個を稼ぎ、面目躍如となった。特に大会の顔、女子棒高跳びでのエレーナ・イシンバエワの復活Vはスタンドを大いに沸かせた。

 陸上大国・米国はタイソン・ゲイの欠場や、アリソン・フェリックスの大会中のケガなどもあり、金メダルはロシアに次ぐ6個に終わった。大邱大会の12個のメダルからは半分と大きく減らした。1ケタ台の金メダル数は10年ぶり。ただ、女子100メートルハードルを制した21歳のブリアナ・ローリンズなど10代20代の若手の台頭も目立った。やはり陸上大国の層は厚い。

 短距離王国のジャマイカは、男女短距離種目を総なめにした。やはり主役はボルト。人類最速の看板に偽りなしという活躍で、短距離3冠を獲得した。また女子のシェリーアン・フレイザー・プライスも負けず劣らずの活躍。ボルトと同様、各種目で圧倒的スピード、強さを見せつけての勝利し、女子初の短距離3冠を成し遂げた。

 9日間に渡って開催された世界選手権は幕を閉じた。3年後のリオデジャネイロ五輪に向け、光明が見えたのか、それとも陰を差したのか。リオの前年には、北京で世界選手権が開かれる。今大会、躍進した者はさらなる好成績を、屈辱を味わった者にはリベンジを期待したい。

 主な結果は次の通り。

<男子1500メートル・決勝>
1位 アスベル・キプロプ(ケニア) 3分36秒28
2位 マシュー・セントロウィッツ(米国) 3分36秒78
3位 ヨハン・クロンジェ(南アフリカ) 3分36秒83

<男子400メートルリレー・予選>
【2組】
1位 米国 38秒07
2位 日本(桐生、藤光、高瀬、飯塚) 38秒23
※日本は決勝進出

<男子400メートルリレー・決勝>
1位 ジャマイカ 37秒36
2位 米国 37秒66
3位 カナダ 37秒92
6位 日本(桐生、藤光、高瀬、飯塚) 38秒39

<男子三段跳び・決勝>
1位 テディー・タムゴ(フランス) 18メートル04
2位 ペドロ・ピカルド(キューバ) 17メートル68
3位 ウィル・クレイ(米国) 17メートル52

<女子800メートル・決勝>
1位 ユニス・サム(ケニア) 1分57秒38
2位 マリヤ・サビノワ(ロシア) 1分57秒80
3位 ブレンダ・マルティネス(米国) 1分57秒91

<女子400メートルリレー・決勝>
1位 ジャマイカ 41秒29 ※大会新
2位 フランス 42秒73
3位 米国 42秒75

<女子やり投げ・決勝>
1位 クリスティーナ・オベルグフォル(ドイツ) 69メートル05
2位 キンバリー・ミックル(オーストラリア) 66メートル60
3位 マリア・アバクモバ(ロシア) 65メートル09
海老原有希(スズキ浜松AC)は予選敗退

(杉浦泰介)