松坂大輔や岡島秀樹(レッドソックス)らの加入やイチロー(マリナーズ)、松井秀喜(ヤンキース)の活躍で、今季は例年以上にメジャーリーグへの注目が集まっている。同じルールながら、日本の野球と米国のベースボールでは異なる点が少なくない。過日、メッツ、ロッキーズ、エクスポズで丸5年間、メジャーリーグの第一線で活躍した千葉ロッテ・吉井理人に当HP編集長・二宮清純がインタビューを行った。その中から実際にメジャーのマウンドに立った人間にしかわからない知られざるMLBの世界を紹介しよう。
二宮: 今年は松坂大輔(レッドソックス)、岡島秀樹(同)、井川慶(ヤンキース)、桑田真澄(パイレーツ)など多くの日本人投手が海を渡りました。結果を出しているピッチャーもいれば、そうではないピッチャーもいます。
 メジャーリーグでの成否を見極めるポイントのひとつにマウンドやボールにアジャストできるかどうかという点があります。とりわけ1年目はこれらの点がカギになります。ボールについてはどうでしたか?
吉井: 日本は牛革でアメリカは馬皮だと言われますね。投げた感覚で言うと、馬皮のほうが目が粗いかな。日本製のほうがしっとりしていますね。

二宮: 私も調べたことがありますが、若干、アメリカのボールのほうが縫い目の山が高いですね。山が高ければ空気抵抗に遭って、それだけボールは変化する。岡島のチェンジアップや桑田のカーブが日本時代よりもよく変化しているように感じられるのはそのためでしょうね。
吉井: 加えて言えばボールもアメリカ製のほうが一回り大きいと思いますね。

二宮: 岡島は「日本で投げていたカーブは使えない」とも言っています。なぜなら岡島の場合、縫い目に指をかけないから。日本製のボールは皮の質がいいからできたけど、アメリカ製だと滑ってしまうと言うんですね。
吉井: 確かにアメリカ製のボールは滑りやすい。だからメジャーの投手は、皆、ロージンの粉で滑らないようにしていますよ。

二宮: よくツバをつけているピッチャーもいますね(笑)。あれは反則では?
吉井: いや、マウンドの外だったら大丈夫なんです。それに、あれは“現行犯”じゃないと審判も不正投球にすることができない(笑)。

二宮: メジャーリーグには相当な“裏技”がありそうですね。
吉井: ええ、いっぱいありますよ。でも現役を続けている間は詳しいことは言えませんが(笑)。

二宮: でもバッターにも“裏技”はあるでしょう。03年にはサミー・ソーサ(現レンジャーズ)が不正なコルクバットを使っていることが判明しました。
吉井: 昔、ある左ピッチャーがバッティング練習をしていた時のことです。普段、打ったこともない選手が急にバカーンと打ち始めたんです。ナ・リーグではピッチャーもバッティング練習をしますからね。
「これはおかしい。そのバット、絶対に何かある」と誰かが言い出して、皆で叩き割ったんです。すると中からコルクが出てきました(笑)。

二宮: チームの誰かが使っていたバットだったと?
吉井: いや、そうではなく既に辞めた選手が使っていたバットでした。退団する時、コルクバットを処分するのを忘れたんでしょうね。

二宮: アハハハ。コルクバットというのはそんなに飛ぶものですか?
吉井: 打った時の音からして違いますね。バコーンという音がしますから。

<この対談は『月刊現代』9月号に掲載された内容を再構成したものです>