腰椎の疲労骨折などで「全治6週間」と診断されながら、モンゴルで草サッカーに興じていた横綱・朝青龍に対する批判がかまびすしい。
 私も映像を見たが「こりゃ“仮病”じゃないの?」というのが第一印象だ。公人中の公人である横綱が公務である地方巡業をスッポかして帰国し、グラウンドを走り回っている姿を見れば、そりゃ巡業部長や歓進元は「騙された」という気にもなるだろう。
 早い話、朝青龍は「職場放棄」をしたわけだから、ペナルティを科されるのは当然だ。まぁ一場所の出場停止くらいが妥当だろう、と思っていた。
 しかし、話はどんどん違う方向にそれていってしまった。朝青龍の「綱の品格」が問題視され、理事会は「2場所の出場停止と4カ月の減俸(30%)」に加え「九州場所千秋楽までの謹慎(自宅、稽古場、病院以外への外出禁止)」「しかるべき理由なしでのモンゴル帰国禁止」の処分を科した。
 これはやり過ぎだろう。不当な量刑である。朝青龍は巡業をスッポかしはしたが、日本の法律を破ったわけではない。力士を“軟禁状態”に置く権利が果たして日本相撲協会にはあるのだろうか。

 記者会見で処分を発表した伊勢ノ海親方(元関脇・藤ノ川)は「今回の処分は過去のトラブルなども含まれているのか?」との報道陣の問いに「心情的にはそういうものも加わっているのかもしれない」と答えた。
 要するに、これまでの「けしからん行為の数々」も加味したというわけである。量刑には裁く側の感情も含まれていると認めたのだ。

 この問題を巡って、私もいくつかのメディアで発言したが、同席したコメンテーターや評論家は異口同音に「朝青龍には横綱の品格がない」と言った。
 仮にそうであったとしても「品格の欠如」は“罪”にはあたらない。朝青龍が裁かれるべきは「職場放棄」であり、その一点にしぼって議論は展開されるべきであった。
 敢えて言う。過去を遡って考えた時、これまで品格的に優れた横綱がいったい何人いたというのだろう。

 協会トップの北の湖理事長(元横綱)にしたって、ウソかホントか知らないが、週刊誌には“制服フェチ”と書かれたことがある。だから北の湖は横綱の地位にふさわしい力士ではなかったと言っているわけではない。「品格」などという曖昧模糊とした言葉で、その人物を評価するのは非常に危険かつ不誠実な行為だと私は申し上げたいのだ。
 個人的な意見だが「品格」のない人間に限って他者に「品格」を求めたがる。目盛りのないモノサシで他者を測る行為がどれだけ愚かしいか、少なくとも賢者はそこに思いをはせなければならない。

 現在の横綱審議委員会の委員長は元NHK会長の海老沢勝二氏だが、氏が辞任に追い込まれた最大の理由は製作費のネコババなど不祥事が相次いだからである。自身の国会参考人招致は、なぜかNHKで生中継されなかった。
 冗談にも「品格」のある御仁とは言い難い。よくも朝青龍の「品格」について言及できるものだ。北の湖理事長や他の親方にも同様のことが言える。


<この原稿は「Financial Japan」2007年11月号『勝者の実学』に掲載されました>
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