安倍前首相の突然の辞任に続いて、民主党の小沢代表が辞意を表明した。「民主党はまだ力不足。次の選挙で勝つのは難しい」と大批判したが、小沢氏はわずか2日で翻意した。
 与野党激突と言われる中、党首会談の場では自民・民主の「大連立」というウルトラCが協議されていた。
 厳しい権力闘争を繰り広げる政治家たちの言動から、リーダーたる人間の資質について考えた。(今回はVol.1)
木村: 安倍晋三前首相の突然の辞任や防衛省の守屋武昌前事務次官の業者との癒着問題など、このところ国や組織のトップのあり方が問われるような問題が次々と起こっています。そこで今回は『男一匹ガキ大将』をはじめとする数々のヒット作品を世の中に送り出し、多くの若者に影響を与え続けている漫画家の本宮ひろ志さんと、小泉政権時代に金融担当大臣を務め、内閣総理大臣という日本の最高責任者を間近で見てきた自民党の伊藤達也議員、そして、小誌連載コラムでお馴染みの二宮清純さんと私の4人で「リーダーの条件」について議論したいと思います。
 まず、本宮さんをこの座談会に誘ってくれたのは二宮さんなんです。どうして「リーダーの条件」について、本宮さんに話を聞こうと思ったんですか。

二宮: 伊藤さんには本当に申し訳ないけれども、私の目には突然辞意を表明した安倍前首相の姿が、「敵前逃亡」に映ったんです。国会の代表質問の前に、いきなり「お腹の調子が悪くなった」と言って、緊急入院してしまった。国際的には国連総会にも行かなければならない大事な時期だった。「国益」「国益」とあれだけ繰り返し言っていた人物が、一番国益を損なっているじゃないかと思いました。おまけに「美しい国づくり」と言っていた人が、あまりにも「美しくない」引き際を見せてしまった。
 そのとき私は「安倍首相は男じゃないな」と思いました。私たちの世代はいわば「本宮世代」じゃないですか(笑)。『男一匹ガキ大将』『俺の空』『硬派銀次郎』を読んで育った世代としては、本宮漫画に登場するような男気のあるリーダーが本当に少なくなったなと感じている。だから本宮さんがこうした現象をどう見ているのか知りたかったんです。

本宮: 今はね、リーダーにとって、極めて難しい時代だと思うんです。世の中の方向性がピンポイントで決まっていて、それがあらゆる方向に向いている。つまり、個人の価値観があまりにも多岐に分かれているでしょう。そうした時代にリーダーになるのは極めて難しい。
 例えば、終戦直後は本当に簡単な時代だったと思うんです。「所得倍増で豊かになりましょう」ということで、みんなが一本にまとまることができた。そうすると、どんな人物がリーダーになっても、全体が一つの方向に向いているから、そんなに難しくなかった。ところが、今はあらゆる方向にみんなが向いている。
 しかも、たいていの人たちは会社勤めのサラリーマンとして、生計を立てているじゃないですか。例えば、出版社で編集長というとリーダーですよね。でも、彼らのほとんどが、組織の中の部品の一つとしてしか育っていない。つまり、部品として育った人間が「ポン」とアタマを張っている状態なんです。残念なことに、彼らは全体を見ている感じがしないし、リーダーという顔つきもしていません。
 政治の世界で言うと、明白な意思を持って、総理大臣という日本のトップの姿を、自分が手にしたザルの中に強引に叩き落とすような方法で獲得したのは、田中角栄と小泉純一郎の2人しかいないと思うんです。
 安倍前首相にしても、今の福田康夫首相のお父さん(福田赳夫氏・第67代内閣総理大臣)にしても、みんな手にしたザルの中に勝手に落ちてくるのを待っていて、結果として総理大臣になったように見えるんです。

二宮:つまり、チャンスが転がり込むのを、策を弄しながら、じっと待っているだけだったと。

本宮: そうです。前に麻生太郎氏(前自民党幹事長)と話したことがあるんですが、「総理大臣になることは、ある目的を達成するための手段だ」と言っていた。その言葉を聞いたときは「麻生さんはきっと総理大臣になるな」と思った。でも麻生さんは、前回の総裁選のとき、無理をしてでも自分の手で総理のイスを取ろうとしなかった。
 結局、安倍首相が誕生し、今の谷垣禎一政調会長のチャンスがなくなって、自然の流れから今回は麻生さんしかいないという雰囲気ができていたのに、結局、福田さんが総理大臣になった。やはり麻生さんには足りないものがあった。それは、自分の手で自分のザルの中に叩き落とさなかったことです。そこが田中角栄や小泉純一郎という人物と大きく違う。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2008年1月号に掲載されたものを元に構成しています>
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