安倍前首相の突然の辞任に続いて、民主党の小沢代表が辞意を表明した。「民主党はまだ力不足。次の選挙で勝つのは難しい」と大批判したが、小沢氏はわずか2日で翻意した。
 与野党激突と言われる中、党首会談の場では自民・民主の「大連立」というウルトラCが協議されていた。
 厳しい権力闘争を繰り広げる政治家たちの言動から、リーダーたる人間の資質について考えた。(今回はVol.5)
二宮: 小泉首相の一番の発明品は「抵抗勢力」という言葉でしょう。「なんで世の中が変わらないんだ」という気持ちが国民の間に鬱積しているときに「抵抗勢力」という言葉を持ち出し、仮想敵を目の前に出現させた。僕はそのとき、「アントニオ猪木の手法と一緒だ」と思った(笑)。
 アントニオ猪木はタイガー・ジェット・シンとか、スタン・ハンセンとか、敵をいっぱい作って自分をベビーフェイスに仕立て上げた。亀井さんなんか、サングラスかけたら悪役にぴったりじゃないですか(笑)。小泉首相も敵対する政治家たちをヒールとして「小泉劇場」に登場させた。実はアントニオ猪木のほうが、ゲンコツで殴ったりして、悪いことしているんですよ(笑)。しかし、外見からして相手のほうが悪役だから、反則が問題にならない。
 僕は田中角栄氏と小泉純一郎氏はタイプが違うと思っています。田中氏は新潟から出てきて、敵と味方は分けたけれども、「お前らみんな、俺のところに来いや」みたいな親分タイプだった。一方で小泉氏は親分というよりも維新の志士のような、ある種、革命家タイプだと考えています。

本宮: 話は変わるんですが、僕は今、ヨットレースを題材とした作品を描いています。皆さんも知っていると思うけれども、「アメリカズカップ」という国際的なヨットレースがあります。この参加者は、それぞれの国の威信をかけて闘っている。まさに世界最高峰のヨットレースです。そういうところでの外国人連中の激しい競争を見ていると、ものすごいリーダーシップと強烈な個性がないと、絶対に勝てないと思う。
 だから、日本人がそこで勝つためには、相当なものがないとダメだと思うんです。それを可能にするリーダーをどうやったら描けるかなという感じで悪戦苦闘しています。
 取材のためにヨットを走らせることがありますが、遠くに目標を定めていないとまっすぐ走れない。目先の波とか風とかに合わせていたら、どこへ行くか、もうわからないんです。人間も一緒で、遠くに目標を持たないとまっすぐに進めない。それがわかっているはずなのに、人間という生きものは目先のことしか考えていないし、それに左右されすぎてしまう。僕に言わせれば、今の日本社会はそんな状態です。

二宮: 『俺の空』だったと思うんですが、「砂漠の中で、何もないところに立たされたときに、どっちに水があるか、わかるやつとわからないやつがいる」という話が出てきたんです。
 名前は忘れましたが、インテリ的な男が「お前にはそれがわからない。安田一平にはそれがわかるんだ」と言われ、ショックを受けるんです。僕はそれを読んで「なるほど、そういうものなのか」と妙に感動した(笑)。

 リーダーは「先見力」ですよ。「こっちに行けばみんなが幸せになれる」というように先が読める人がリーダーだと思いたい。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2008年1月号に掲載されたものを元に構成しています>
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