8日(現地時間)、全米オープンテニス男子シングルス決勝が行なわれ、錦織圭(日清食品)が男女合わせて日本人初のグランドスラムファイナルに臨んだ。錦織は198センチの長身から繰り出す時速200キロ超のサーブを誇るマリン・チリッチ(クロアチア)を相手に善戦したものの、グランドスラム初制覇を成し遂げたのはチリッチだった。サーブのみならず、ストロークでも最高のプレーを披露したチリッチが6−3、6−3、6−3で錦織をストレートで破った。決勝後の世界ランキングは、優勝したチリッチが大会前の16位から自己最高タイの9位、錦織は自己最高の8位に浮上した。
 どちらが勝ってもグランドスラム初制覇となる決勝戦。準決勝では錦織は世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)、チリッチは同3位のロジャー・フェデラー(スイス)とトップ選手を破り、互いに勢いに乗っている。果たして、どんな展開となるのか−−。

 第1セットの序盤は互いに譲らず、第5ゲームまでサービスゲームをキープし続けた。チリッチは200キロ超の強烈なサーブでエースをとるなどパワフルさを発揮。一方、錦織は緩急をつけ、相手を左右に揺さぶる頭脳的なプレーを見せた。しかし徐々に試合の流れはチリッチに傾いていった。

 第6ゲーム、チリッチが3本連続でポイントを連取し、この試合最初のブレイクポイントを迎えた。だが、錦織もここまで成功率31%だったファーストサーブを3本続けて入れるなど、ピンチでの強さを見せる。2本返して30−40と迫ったが、最後はラリーの末に、錦織の緩く打ったショットがラインを越え、チリッチがブレイクに成功した。その後、互いに1ゲームずつ取ってゲームカウント5−3で迎えた第9ゲーム、チリッチはラブゲームで奪い、第1セットを先取した。

 この日の錦織は、珍しくフレームショットするなど、チリッチのボールにタイミングを合わし切れていない場面が多く見られた。第1セットのウィナーの数はチリッチ11本に対し、錦織は2本という数字からも、錦織の苦戦ぶりがうかがい知れた。

 第2セットに入っても、錦織のショットにミスが続く。ゲームカウント1−1で迎えた第3ゲーム、錦織のショットが立て続けにアウトとなる。完全に錦織ペースで展開するストローク戦でも決めに行ったショットが入らない。錦織は自らのミスで0−40とチリッチにブレイクチャンスを与えた。錦織も粘ってデュースまで持ち込むも、逆転することはできずにこのゲームを落とした。

 一方のチリッチは絶好調だった。圧巻だったのはゲームカウント3−2で迎えた第6ゲーム。フェデラーにも「お手上げ」と言わしめた強烈なサーブを惜しげもなく披露。4本連続でサービスエースを決め、4−2とリードを広げる。さらに第7ゲームをブレイクし、錦織を追い込んだ。錦織も第8ゲームを初めてブレイクし、粘りを見せる。第9ゲーム、錦織はこの試合初めてバックハンドでのウィナーを決めるなど、リズムをつかみかけた。しかし、チリッチはまったく崩れない。リターン、ストロークともに深いショットを打ち、錦織のミスを誘った。迎えたセットポイントでは、スピンがかけられたフォアハンドでのダウン・ザ・ラインが見事に決まり、このセットもチリッチが6−3で奪った。

 第3セットもチリッチは好調をキープする。第1ゲーム、いきなり3本連続でサービスエースを決め、流れを引き寄せた。錦織も粘ってデュースに持ち込むも、最後はチリッチの鋭いサーブに押され、リターンを返すことができなかった。錦織は角度のあるショットでチリッチをコートの外に追いやり、オープンスペースをつくる彼らしいプレーが徐々に増えていったものの、チリッチの勢いを止めるまでには至らなかった。第4ゲームをチリッチにブレイクされた錦織は、第6ゲームをラブゲームでキープして反撃の糸口をつかみかける。しかし、チリッチは第7ゲーム、2度のデュースの末に最後はバックハンドのダウン・ザ・ラインを決め、初制覇まであと1ゲームとした。

 第8ゲームは錦織の好プレーに観客が沸いた。立て続けにチリッチのバック側を攻めて、最後はオープンスペースにフォアハンドの逆クロスを決めると、この日2本目となるサービスエースを取るなど、錦織ペースでこのゲームをキープした。しかし、チリッチは最後まで崩れなかった。迎えた第9ゲーム、この日絶好調のサーブで2連続ポイントを奪うと、ストローク戦をも制し、40−0とマッチポイントを迎えた。初の頂点まであと1ポイント。さすがのチリッチも意識したのか、ここでこの試合初めてのダブルフォルト。しかし、焦りはなかった。バックハンドでのクロスボールが、錦織のコートに落ちた瞬間、チリッチのグランドスラム初優勝が決まった。

 サーブ、ストロークともに絶好調だったチリッチの勢いに押されるかのように、この試合の錦織は本来のプレーができずに終わった感が否めない。それでも日本人、アジア人として初めてグランドスラムのファイナルの舞台に立った錦織。準優勝という成績は快挙である。グランドスラムでは2005年の全豪以来39大会ぶりに、ジョコビッチ、ラファエル・ナダル(スペイン)、フェデラー、アンディ・マリー(英国)の“ビッグ4”が決勝に姿を現さなかった今大会は、男子テニス界の新しい時代の幕明けを示唆していると言っても過言ではない。そして今年の全豪覇者のスタニスラス・ワウリンカ(スイス)、そして全米覇者のチリッチらとともに、錦織もまたその主役のひとりである。彼らが、これからの男子テニス界を盛り上げていくに違いない。