サッカーの日本代表といえば、あらゆるスポーツの代表チームの中で最も集客力を誇る、いわば“カネの成る木”だが、このところブランド力に陰りが見られるという。


 ジーコジャパン時代は20%前後が当たり前だった視聴率も、オシムジャパンになってからは10%半ばが指定席。2010年南アW杯の予選が始まるまでは低空飛行が続くだろうと見られている。

 理由はいくつもある。
 ひとつは日本代表の最大のスターであった中田英寿の引退だ。98年フランスW杯の予選以来、中田といえば“ミスター日本代表”だった。フランスW杯後、中田はセリエAに戦いの場を移したが、どんなファッションでイタリアから帰国するか、それさえも注目の的だった。

 今、こんなスターは日本にはいない。コアなサッカーファンは不動でも、女性誌を通してサッカーに接していたようなファンは昔に比べれば、随分減ったような気がする。

 二つ目はドイツW杯での惨敗だろう。「世界を驚かす」(ジーコ監督)と大見得を切ってドイツに乗り込んだものの、ジーコジャパンはわずか勝ち点1をあげただけで予選リーグ敗退。期待が大きかった分だけ、失望も大きかった。

 ドイツが終わったから、はい次は南アフリカですよ、と言われても、そう簡単に気持ちは切りかえられまい。その意味で今行われているアジアカップの成績はオシムジャパンが浮上するか失速するかの分岐点になることは間違いあるまい。

 私見を述べれば、代表人気が少々落ちたからといってジタバタすることはない。
 Jリーグが誕生するまで、サッカー日本代表にいったいどれだけの日本人が熱い視線を注いでいただろう。土台さえしっかりしていれば、天守閣はいつでも作り直すことができる。

 その意味で、サッカー人気は日本代表よりもJリーグの入場者数にあると思う。そこで調べてみるとJ1の入場者は265万5553人(00年)、416万4229人(03年)、559万7408人(06年)と右肩上がりで推移しているのである。

 これは良い兆しだ。サッカー人気が全国津々浦々に浸透してきた証左である。代表人気に一喜一憂するのは、サッカー後進国である。

 しかし、だからといって日本代表が弱くていいというわけではない。協会はアジアカップに成績上のノルマは設けていないが、これはいかがなものか。

「負ける準備はできた。永遠に日本が勝ち続けたらアジアカップに魅力がなくなるし、おもしろくないでしょう」
 アジアカップが始まる前、オシムはこう言った。オシム独特のシニカルな言い回しだが、「負ける準備はできた」というのは言いすぎだ。仮に代表優先とは言えないJリーグのスケジュールに不満があったとしてもだ。

 初戦のカタール戦、終了間際の同点ゴールで手にするはずの勝ち点3が勝ち点1に終わってしまった。後半16分にエース高原直泰の見事な左足ボレーで先制しながら、とどめが刺せない。事実上、ゲームをフィニッシュすることができないのだ。

 その意味で後半43分のセバスチャンの同点ゴールは「事故」ではあっても、不可避のそれではない。とどめを刺しきれなかった日本代表が自らの不始末で呼び込んだ、ある種、必然的な「事故」だったと考えた方がいい。

 失点を悔やむより、とどめを刺せなかったツメの甘さを反省すべきだ。そうでなければ格下のチームを相手にしても、日本代表は常に「事故」と隣り合せのサッカーを余儀なくされることになる。

 試合後、オシムはロッカールームで大爆発したという。
「6対1で勝っていてもおかしくなかった。ボール回しも良かったし、ボクシングでいえば3階級ぐらいの違いを見せた。それなのにフィニッシュを決められず、逆にチャンスを与えた」

 逆に言えば「3階級違う」相手に対しても、きっちり勝ちきれないのが日本代表の現状である。フィニッシュの精度が低いままではジレンマはこの先も続くだろう。

 オシムジャパンの最大の目標はアジアカップ3連覇ではなく、南アW杯出場である。そのためにもアジアカップでノルマを設け、鍛えられなければならなかった。今、戦えない者が厳しい予選をクリアできるわけがないからだ。

(この原稿は『週刊漫画ゴラク』07年8月3日号に掲載されました)


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