ラグビー界の若き名将の手による組織論。リーダーとはかくあるべし、と一読して納得した。
 1995年、ヘッドコーチとしてサントリー・ラグビー部(サンゴリアス)を日本一に導いた著者は97年から99年まで“平尾ジャパン”のコーチを務め、2000年、再びサンゴリアスの監督に就任した。チームはどん底の状態にあった。
 再建のためには何が必要か。著者がまず行ったのは選手を型にはめることだった。弱者の「自由」は換言すれば「放縦」だ。ラグビーは15人で行うスポーツだ。15人が同じ目標を有し、戦術理解を深めないことには勝利はおぼつかない。
 しかし、2年目、著者は個人プレーを解禁する。そして3年目は創造へ―。いわゆる「守破離」のプログラム。
 未だにこの国のスポーツ界では「個人」か「組織」かといった不毛な議論が横行している。いうなれば車のタイヤは右が重要か、左が重要か、と議論しているようなもの。先の二つは対立概念ではなく、融合させるものだ。“核融合”に成功すれば、とんでもないエネルギーを発揮する。
 では、それをどう行えばいいのか。そのソリューションがこの本では実に明確に描かれている。
「『勝てる組織』をつくる意識革命の方法」(土田 雅人 著・東洋経済新報社・1600円)

 2冊目は「眼力」(斎藤 孝 著・三笠書房・1200円)。人の能力や才能はどこで判断すべきか。何を目安にすべきか。興味深く読んだが、やや参考文献に頼りすぎている。著者自らが取材していれば説得力も違ったはずだ。

 3冊目は「昭和天皇の『極秘指令』」(平野 貞夫著・講談社・1600円)。著者は衆議院事務局、2期12年間の参議院議員時代を含め、およそ半世紀にわたって政治の世界で生きてきた。本書はいわば昭和から平成にかけての政治の裏面史。

<この原稿は2004年7月15日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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