今回のドラフトでは「実力伯仲」を合言葉に2点のルール変更を行いました。我々の理念である「実力伯仲」はプロリーグが白熱する上で最も大きな要素。新規参入の2チームを含めた、どのチームでも優勝争いに絡めるように、ストレートウエーバー制と、過去の成績を考慮した新しいプロテクト基準値を導入しました。
(ドラフト会議での河内コミッショナー<中央>)

 上位チームにとっては、かなり厳しいルール変更です。指名順番が遅い過去の上位チームはドラフト会議で希望通りの選手が獲りづらくなるかもしれない。ただ、僕は前向きに考えている。たとえば、2連覇時と変わらないメンバーの大阪を、補強した他のチームがやっつける。それはそれで楽しいでしょう。もう一つは、大きな補強のできなかった大阪がそれでも勝つ。その時は天日HCの手腕が高く評価される。これも面白い。色々な見方をするべきだと思うんです。

 それに、今、世界の様々なプロリーグを研究していますが、全てのチームが満足に選択できるような合理的なシステムはほとんどないんです。10人いて、10人が納得できることは皆無に等しい。だから、我々も今回の反省点を踏まえて、もう一度協議していきたい。今は「これ以上はプロテクトしてはいけない」といったルールも考えています。次のドラフトは、FA選手が出てくると思いますし、それを考慮したシステムをつくらなければいけないですね。

チームトライアウトで順番を決めるつもりはない

 ドラフト会議で指名されなかった選手は大抵、全てのチームトライアウトを受験します。「先に開催した方が有利じゃないか、『実力伯仲』のため順番を決めた方がいい」という声も聞かれます。ただ、チームトライアウトの順番は決めるつもりはありません。

 それぞれのチームに事情がありますからね。例えば、体育館を獲りたくても獲れないチームがあるんです。東京や大阪といった大都市には様々な競技団体があるので、体育館を獲るのが非常に難しい。逆に、地方は体育館を2日連続で獲ったりできる。

 それに、単純にトライアウトを早くやった方が有利になるというわけではない。コンディショニングの面がありますよね。ドラフト会議が終わって、少し時間が経って、チームトライアウトが始まる。そうなると、最初のチームトライアウトでは100%のパフォーマンスを発揮できない可能性がありますよ。逆にいえば、最後にトライアウトをやったチームが、いい状態の選手を見て、獲得できるかもしれない。最初にやるのも、後にやるのも一長一短です。どちらを選択するか。それも球団同士の駆け引きですよね。

沖縄は台風の目になりうる

 最後に、まだドラフト会議が終わっただけですが、今季のリーグ戦を軽く展望しましょう。僕はバスケットボールというものは個人スポーツじゃないと思うんです。そういう意味で、HCがいかに早く地元にやってきて、いかに早く練習するか。これはチームをつくる上で非常に大きなウエイトを占める。

 新規参入の福岡はHCこそまだ正式に決まっていないものの、その意味をよく理解していて、選手獲得を含めチーム編成を急いでいる。

 同じ新規参入の沖縄はHCがドラフト会議に出席していたし、既に選手とのコミュニケーションをとり始めている。沖縄はドラフトでは優れた選手を獲得したし、「昨季の高松のような台風の目になる可能性は十分にあるんじゃないか」と個人的に見ています。

高松はやるべきことが明確

 今季のファイナルで惜しくも敗れた高松も侮れない存在ですよ。彼らは「打倒大阪」と照準が定まっている。ファイナルでの敗因を分析して、今回の6人のプロテクトを行ったと思うんです。

 確かに、中川が抜けた穴は大きい。でも、彼の穴を埋められるような日本人選手をしっかりピックアップしてくるでしょうね。既存の選手を育てるのが一つの方法。もう一つ考えられるのは、外国人選手をポイントガードに持ってくること。

 優勝するために何をどうすればいいのかが明確だから、プランが立てやすい。中川の穴を埋めて、他の部分を上積みできれば、大阪に勝てる。やっぱり、ファイナルまで進出したことは彼らの大きなアドバンテージになっていると思いますよ。

 今季は4位に終わった新潟は、目標設定を誤りましたよね。大阪に勝つことしか目標がなかった。だから、セミファイナルで足をすくわれた。その時点で「3位決定戦は絶対に勝てないだろうな」と思いましたよ。燃え尽きてしまいましたね。来季こそは、過去2シーズン分の悔しさをぶつけてくれることでしょう。

王者大阪、安定が弱点!?

 王者大阪についていえば、今回トレードで獲得した仲村という選手は非常に安定しています。その意味では「戦力が落ちないんじゃないか」と普通は思いますよね。ただ、バスケットボールというものは、そう単純ではない。今回トレードで東京に移籍した城宝みたいな爆発力がある選手が必要になってくるんですね。今季のオールスターでは目をつぶっても入るように3ポイントを決めていたのをよく覚えています。ああいう選手は、相手チームにとってすごく嫌な存在なんですよ。今回のセミファイナルでも、高松の岡田が爆発して、試合を決定付けていたでしょう。

 城宝を手放して仲村を獲得した大阪はかえって、相手にとってやりやすい存在になったんじゃないかと思っています。安定しているから大崩れはしないけど、爆発力という点では物足りない。たとえば、来季、東京の城宝は、大阪戦の前の試合では全然ダメでも、大阪戦で3ポイントが爆発するかもしれないですよ。メンバーだけを見て、単純に計算はできないところが、バスケットの奥深いところなんですね。

(終わり)

<河内敏光(かわち・としみつ)プロフィール>
1954年5月7日、東京都生まれ。三井生命で約10年間選手として活躍の後、全日本チームの監督を務める。2000年「新潟アルビレックス」を結成し、(株)新潟スポーツプロモーションの社長に就任。04年11月、コミッショナーとしてbjリーグを立ち上げ、05年3月に(株)日本プロバスケットボールリーグ社長に就任した。著書に「意地を通せば夢は叶う!〜bjリーグの奇跡〜」(東洋経済新報社)。

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