「女子+硬式野球=マネージャー」
 小さい頃からこんなイメージがありました。硬式野球に携われるのは、『タッチ』の南ちゃんのようなポジションだけだと思っていたのです。
 私は現在、埼玉県を拠点に活動する、硬式野球クラブチームに所属しています。前職で1年間、女子硬式野球にスタッフとして関わっていました。
 現在、日本全国に女子のみの硬式野球チームは10数チーム。そのうち部活動として活動する高校野球部は5校。昨年日本で初めて誕生した大学野球部は1校(今年2校になる予定)。そのほかは主にクラブチーム。
 女子硬式野球の歴史はまだ浅い。女子野球が誕生したのは、愛媛県今治市。1917年、今治女子高等学校が野球部を創設したのが始まりです。1950年に日本女子野球連盟が発足し、台湾遠征等もおこなっていましたが、1971年に自然消滅。しかし、1986年に全国大学女子軟式野球連盟、翌年に全国女子軟式野球連盟が発足し、そこから遅れること10年後の1997年、第1回全国高等学校女子硬式野球大会が開催、2005年に第1回全日本女子硬式野球選手権大会が開催されました。

 女性が野球をするとなると、学校の部活動にあるソフトボール部に入部するか、マネージャーになるか、その2つしか頭になかった私には、「女性選手が硬式野球に触れるきっかけは何?」ということが疑問でした。私が硬式野球に触れることになったのは仕事を通じて、しかも26歳とかなりの遅咲き(?)なのですが、恥ずかしながらやはりつい最近まで、女性が硬式野球をする、という発想が全くありませんでした。まわりにもそんな勇気のある女性はいなかったし、そのような環境もなく、環境を作り出そうともしていませんでした。

 一昨年11月、大分で女子野球の日米大会が6日間にわたって行われました。その記者会見で、代表選手ひとりひとりが硬式野球を始めたきっかけを披露する機会がありました。いろいろなきっかけがありましたが、一番多かったのが、「兄の影響」「父の影響」。ソフトボールからの転身の選手も数多くいました。
 男子野球部の中に、女子選手がひとりで所属する、という選手も多くいます。茨城ゴールデンゴールズの片岡安祐美選手が注目を浴びましたが、彼女も茨城ゴールデンゴールズに所属する前は、男子ばかりの高校野球部に所属していました。男性ばかりのクラブチームやシニアに、女性選手が所属していたりもします。
 そんな女性選手たちに出会い、感じたことは、「硬式野球をやりたい」という揺るがない思いを持ち、それを実行に移す力があること。彼女たちの野球に対する思いは、男子選手の心も動かします。

茨城ゴールデンゴールズとの試合でみた女性選手の思い

 昨年、私の所属するチームが、茨城ゴールデンゴールズと試合をしたことがありました。そのときの我がチームの先発バッテリーは日本代表の女性選手。普段所属している選手ではないのですが、1日だけ、初回だけの飛び入り参加でした。初回、3点を失い、「初回だけ」という話だったので、悔しい結果で終わりなのかと思ったのですが、「すみません」と納得いかない顔で戻って来た女性ピッチャーに、監督は「ご苦労さん」とは言いませんでした。
 「次の回はどうするんだろう?」そう思っていた初回の攻撃中、監督の隣でスコアをつけていた私の耳に、監督とコーチが話す「もう1回投げさせてもいいか?」という声が聞こえました。「もう1回投げられるか?」との監督の言葉に、女性ピッチャーは「はい!」と即答。2回の守備につく選手に「この回も投げてもらうから。しっかり守ってやれ」と監督が言うと、選手はいつも通り大声を上げながらグラウンドに散っていきました。2回は失点なし。マウンドから戻ってくる彼女のやり遂げた顔が今でも思い浮かびます。その日の夜、彼女から絵文字がいっぱいのメールが届きました。「また一緒にやりたいです!」。あの日以来、まだ一緒にプレーをする機会がないのですが、また我がチームに来たら、そのプレーと気持ちがチーム全員の気持ちを動かしてしまうことは間違いないと思います。

 部員を支える南ちゃんではなく、一選手としてボールを追いかける。
 野球を愛する女性選手を見て、こんなことを思いました。
 「女子+硬式野球=女子硬式野球」
 単純ですが、とても難しい足し算をやってのける女性選手に、これからも注目していきたいと思います。

★携帯サイト「二宮清純.com」では、このコーナーのコラムをHPに先行して配信中です。紅一点の女子部員の奮闘ぶりを一足早く携帯でお楽しみいただけます。更新は第1、3火曜。ぜひ、チェックしてみてください。
広瀬明佳(ひろせ・さやか)
福島県郡山市出身。母がソフトボール、兄が野球をやっていたことから中学・高校時代ソフトボール部に所属。大学時代軟式野球サークル。前職での仕事をきっかけに初めて硬式野球の道へ。現在、埼玉県内の硬式野球クラブチームに所属。チームの紅一点として奮闘中!

(このコーナーは毎週第1・3木曜日に更新いたします)
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