今週、入部希望の選手が練習に参加しました。現在23歳。入部希望ながら、大学一年のときに肩を痛め、それ以来、硬式野球から距離を置いており、投げるのが怖いということ。たしかに、サードの守備のとき、あまり思いきり投げられないでいるようでした。
 その選手を、大塚監督が呼びました。
 「肩痛いんか?」
 「はい」
 「ええか、腕を真正面の方向に下ろして投げると投げられん。これじゃイップスや。なんか変やろ?」
 「はい」
 「左斜め下の方向に向かって上から腕を振り下ろす。この軌道だと負担が少ない」
(写真:投げ方を指導する監督)
 選手の背後にまわり、左手で肩甲骨の辺りを押さえながら、右手で腕の振りの軌道を教える監督。負担の少ない投げ方、そのときの骨・筋肉の動きを教えています。監督の言ったことを一生懸命吸収しようとしている選手の前に、今度は大塚監督が背中を向けて立ち、「俺の肩の動きをさわってみろ」と言いました。選手が監督の肩甲骨のあたりに触れ、監督が先ほどと同じ腕の動きをします。
 「俺の言いたいことわかるか? そしてな、投げるときに左肩が下がってもええ」
 「えっ? 肩が水平じゃなくてもいいんですか?」
 「全然構わへん」
 選手は驚いたようでしたが、教えてもらったことを頭に叩き込むように何度もフォームを確認。その後の守備練習では、前よりも迷いが無い投げ方をしていました。

 いつも頼りになる大塚監督の弱点・・・それは私が思うに、筋金入りの方向音痴。練習場所が変わるたびに私は不安にかられます。

 2月10日、心配した雨も上がり、初めてお借りしたさいたま市内の某高校グラウンドで練習。
 11時集合とはいえ、最寄駅は埼京線の「指扇」駅。そして駅からグラウンドは、歩くにはある程度の決意が必要とされる距離。これといった目印も無く、住所も不明。しかし、浦安や栃木から来ている選手は時間よりも早くグラウンドに到着。横浜在住の私も必要以上に早くグラウンドに到着。
 選手は着替えをしたり、腹ごしらえをしたりしてグラウンドに入れる時間になるのを待ちわびます。空いたスペースでキャッチボールをはじめる選手も出てきました。

 時間通りに安藤コーチが到着。コーチは毎週休まず迷わず来てくれます。「安藤がいなかったらこのチームは今までやってこれんかった」という大塚監督の言葉通り、我がチームのものすごく太い大黒柱です。
 「安藤さん、おはようございます!」
 「大塚さんは?」
 そうです、もうひとりの大黒柱がやっぱり来ていません。
 「まだいらっしゃってません」
 「はぁ?」
 「すみません・・・」私悪くありません・・・。でも何だかすごく悪い事をした気がしたその時、携帯が鳴りました。監督からです。
 「グラウンドどこ? 高校のところにいるんだけど」
 「高校から少しはなれたところにグラウンドがあるんですよ。そこから駅方面に向かって下さい。交差点を右です」
 「おー、わかったわかった。そいじゃねー」
 グラウンドに入り、アップをし始めても、監督は現れません。また携帯が鳴ります。
 「近くにゴルフ打ちっぱなしある?」
 「あります、あります!」
 「もうようわからんからゴルフ打ちっぱなしの正面まで迎えに来いや」
 「あ・・・わ、わかりました」そんなに近い距離ではありません。土手を登り、下り、目印のない細い道を走ります。
 「ゴルフ場の前におる?」
 「いますよ」
 「おらんやん」
 「いますって」
 「住所聞け」携帯を耳にあてたままゴルフ練習場受付のおばさんにききました。
 「あの〜、ここの住所教えて下さい」
 「さいたま市●●▲▲ですよ」
 「ありがとうございます! ・・・大塚さん、住所言いますね。さいたま市・・・」
 そして電話越しに聞いたナビの軽快な声『目的地まであと18キロです』。
 「アップさせとけ」
 心のなかで「もうしてます・・・」と思いながらとぼとぼと来た道を戻りました。あまりの遅刻っぷりに、監督を迎えに行こうと車を出動させた安藤コーチと途中で会いました。車の窓を開けて「大塚さんは?」と聞いてきたコーチに言いました。
 「18キロ離れたところに監督いますよ」
 「・・・乗れ。グラウンド戻るぞ」。

 今週もまた新しいグラウンドで活動です。しかも朝の9時集合で練習試合。試合開始のときに監督が無事に整列できることを今から願うばかりです。


★携帯サイト「二宮清純.com」では、このコーナーのコラムをHPに先行して配信中です。紅一点の女子部員の奮闘ぶりを一足早く携帯でお楽しみいただけます。更新は第1、3火曜。ぜひ、チェックしてみてください。
広瀬明佳(ひろせ・さやか)
福島県郡山市出身。母がソフトボール、兄が野球をやっていたことから中学・高校時代ソフトボール部に所属。大学時代軟式野球サークル。前職での仕事をきっかけに初めて硬式野球の道へ。現在、埼玉県内の硬式野球クラブチームに所属。チームの紅一点として奮闘中!

(このコーナーは毎週第1・3木曜日に更新いたします)
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