安倍前首相の突然の辞任に続いて、民主党の小沢代表が辞意を表明した。「民主党はまだ力不足。次の選挙で勝つのは難しい」と大批判したが、小沢氏はわずか2日で翻意した。
 与野党激突と言われる中、党首会談の場では自民・民主の「大連立」というウルトラCが協議されていた。
 厳しい権力闘争を繰り広げる政治家たちの言動から、リーダーたる人間の資質について考えた。(今回はVol.11)
本宮: テレビを筆頭とする日本のメディアは、次から次へといじめる相手を見つけては、自分こそ正義みたいに言うけれど、安倍さんはいじめる対象にならないぐらいにコケた。政治家として安倍さんは再登板を考えていると思いますか。

伊藤: うーん、再登板を考えて決断したというようには見えなかったですね。今回明らかになったことは、自民党の中でリーダーを選ぶ仕組みが、今までとはだいぶ変わってしまったことだと思うんです。つまり、今までは派閥の激しい権力闘争を勝ち抜いた人間が総裁となり、総理大臣になった。タフなリーダーを作るしくみがあったわけです。

 しかし小泉さんが「自民党をぶっ壊す」と言って、派閥の機能を低下させたことで、そういう競い合いの仕組みを失った。そこで登場した安倍さんには、何度もチャレンジして権力を取りに行くとか、転んでもまた挑戦するとかいう気持ちはないんじゃないかな。

二宮: 選挙の仕組みが小選挙区制になったことで、派閥の役割はほとんど終わったような気がするんですけど、今回の総裁選で、経世会(現津島派)の額賀福志郎さんは一度手を挙げたのに、結局出馬をとりやめて、福田支持に回りました。そして、気がついてみると財務大臣に留まっている。総裁候補としては、いささか物足りない感じがするんですが……。

伊藤: 非常に答えにくい質問がきましたね(笑)。一番重要なことは、小選挙区制が導入されて10年が経ち、この制度がいよいよ定着したということです。ある意味では、政権交代が実現可能な時代に突入したということです。緊張感を持って民主党と競い合う体制を整えなければいけないのに、内向きなエネルギーしか働かない。旧来の発想で手を挙げようとしても、天下を狙う流れはできません。

 だから福田さんは、単なる談合の中で誕生したリーダーではないですね。民意が対話を求める混迷した時期にふさわしい「知恵のあるリーダー」ということで選ばれたと思います。

木村: じつは福田さんはタフな人物だということですかね。では、タフで媚びないというのが仮にリーダーの条件だとしたら、民主党の小沢一郎代表はどうですか。

伊藤: 鍛え抜かれていますよ。何度も修羅場をくぐり抜け、何度も失敗している。小沢さんは10回に1回、特大のホームランを打つんです。勝つ試合はめっぽう強いが、負ける試合はもうベタベタに負ける。今は逆バリで自民党の弱いところを徹底的に突いてきている。完全に小沢さんの勝ちパターンで攻めてきている。
 
 正直に言って、敵ながら「あっぱれ」だと思います。見事に構造改革の痛みを突いてきた。あの小沢さんが「生活者の立場に立って」と言うんですよ。新進党を作ったときの小沢さんからは考えられないでしょう(笑)。

木村: 新進党を作った当時の小沢さんは、どんなことを言っていたんですか。

伊藤: 「日本は普通の国にならないといけない」と言っていました。タカ派的な強いリーダーのイメージがありました。ところが、今の小沢さんは「格差の中で傷ついた人たちに愛の手を差し伸べたい」「自分たちがそういうところに足を運び、その痛みを受け止めた上で政治をやる」と訴え、参議院選挙を戦った。

本宮: でもね、小沢さんは細川政権のときに、何の前触れもなく「福祉目的税で7%だ」といきなり発表しちゃう人ですよ。ずっと後で振り返ってみたら、政局を荒らしただけの政治家にしか見えないかもしれない。あまり好きじゃないんだよね、僕は(笑)。

 田中派が108人とか言われていたときに、小沢辰男さん(元厚生大臣)に世話になっていましてね。同じ小沢でも「いっちゃん」はただの若い衆にしか見えなかったな。

二宮: 小沢さんがそこまで言っているんだから、自民党は西の横綱vs.東の横綱で勝負したほうがいいですよ。そう考えると、福田さんは大関ぐらいじゃないですか。やはり小泉さんが総裁として戻ってくる。そのときが本当の“関ヶ原”でしょう。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2008年1月号に掲載されたものを元に構成しています>
◎バックナンバーはこちらから