サッカーの日韓戦は54年の歴史を誇る。これまでの戦績は日本代表の11勝36敗20分け。日本からすれば、まさに「赤い悪魔」だ。

 これまで観た日韓戦の中で、最も思い出に残っているのは97年9月28日、東京・国立競技場での試合だ。フランスW杯アジア地区最終予選。1勝1分け、勝ち点4で日本は宿敵・韓国をホームに迎えた。

 先制したのは日本。後半22分、山口素弘の芸術的なループシュートがGKの頭上をフワリと越えた。フランスへの視界が開けたかのように見えた。しかし――。

 後半39分、韓国は右サイドで粘った徐正源が頭で叩き込み同点。さらにその3分後、名波浩のトラップミスを李基珩が拾い、崔龍洙がフリーになっている李敏成へ横パス。李が鋭く左足を振り抜くと、GK川口能活の前でボールが小さくバウンドし、指先をすり抜けるようにゴールネットに突き刺さった。

 ひとつの采配ミスが日本代表の歯車を狂わせた。先制から6分後、加茂周監督はFW呂比須ワグナーに代え、DFの秋田豊をピッチに送り出した。決勝点をあげた李は言った。「マークしていた呂比須が抜け、フリーで動くことができた」。一方、加茂監督が秋田に「マークしろ」と言って送り出した高正云は既にピッチを去っていた。

 長い日韓戦の中でも、日本人が最もくやしい思いを味わったのは、この試合ではなかったか。と同時に貴重な教訓も得た。「攻撃は最大の防御」――。ディフェンシブな陣形をとっていても、常に心には刃を忍ばせていなくてはならない。後に加茂監督はこう語っている。「弱気になったわけではないが、1点を守ろうという意識が強過ぎたのかもしれない……」


※二宮清純が出演するニッポン放送「アコムスポーツスピリッツ」(月曜19:00〜19:30)好評放送中!
>>番組HPはこちら



◎バックナンバーはこちらから