衝撃的な真実が明らかになった。サッカー界のスーパースターで「フライング・ダッチマン」の異名を取った元オランダ代表のヨハン・クライフが、1978年アルゼンチンW杯を欠場した理由は、当時のアルゼンチン軍事政権に対する批判ではなく誘拐未遂事件だった。

 クライフはスペインのラジオ番組で、77年にバルセロナのアパートにて何者かの手で夫人とともに縛り上げられ、ライフル銃を頭に突き付けられた事実を明らかにした。事件から31年ぶりの告白だった。

 オランダはアルゼンチン大会決勝でアルゼンチンに敗れ、2大会連続で準優勝に終わった。もしクライフが出場していれば、W杯の歴史は変わっていたかもしれない。

 困ったことに、サッカー選手や家族の誘拐は珍しい話ではない。世界に衝撃を与えたのは94年米国W杯の直前、ブラジル代表の「点取り屋」ことロマーリオの父親が誘拐された事件。犯人はロマーリオに7億円の身代金を要求した。だが、ロマーリオはこのくらいのことで動じるタマではなかった。犯人たちを「もしオレが働けずにブラジルが優勝できなかったら、悪党仲間がオマエらを許しちゃおかないだろう」と“逆脅迫”し、父親の解放にこぎ着けた。

 ブラジルでは高額所得者のサッカー選手や家族を狙う事件が後を絶たない。一昨年の秋にはACミランに所属していたリカルド・オリベイラの姉がサンパウロ市内の自宅で拉致され、暴行を受けた。身代金を支払ったかどうかについては明らかにしなかった。

 野球のメジャーリーグでは誘拐を防ぐため、選手は遠征先のホテルは偽名で宿泊し、原則として外部からの電話はシャットアウトしている。子どもの写真も特別な事情がない限りメディアには公表しない。欧州サッカーでもほぼ同様の措置が取られている。スタジアムを照らす光が強ければ強いほど、その闇も深いということか。

(この原稿は『週刊ダイヤモンド』08年5月17日号に掲載されました)

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