Jリーグが2年後を目処に現行の外国籍枠からアジアサッカー連盟(AFC)加盟国の選手をはずし、新たに「アジア枠」を設置しようとしていることが明らかになった。
 いい試みだ。双手をあげて賛成したい。

 その理由を述べる前に、07年の世界主要企業の時価総額ランキング(野村証券調べ、日本経済新聞1月13日付)を紹介したい。
 首位は前年6位の中国石油天然気(ペトロチャイナ)、2位エクソンモービル(アメリカ)、3位GE(アメリカ)、4位中国移動(チャイナモバイル)、5位中国工商銀行とベスト5のうち3社までが中国・香港勢によって占められていた。日本勢はトヨタ自動車の21位が最高だった。

 時価総額は株価と発行済み株式数の積算によって算出される。つまり市場の成長期待がそのまま反映される。
 年率10%を超える経済成長をとげる中国、同じく8%を超えるインド、5%を超える東南アジア諸国の存在感が今後、さらに高まるのは自明である。
 
 そんな状況を受けて、この2月、旗振り役の犬飼基昭Jリーグ専務理事はこう語った。
「もちろんアジアの発展するマーケットを取り込むことが狙いです。たとえば浦和レッズは昨季ACL(AFCチャンピオンズリーグ)を制したことで中国や東南アジアにまでファンを拡大した。Jリーグの未来を考えた時、閉鎖されたマーケットではこれ以上の発展は望めない。将来、ヨーロッパのビッグクラブと伍していくためにも、ぜひアジア枠の創設を実現させたい」
「抵抗勢力もいるでしょう?」
「ええ、日本人育成の阻害になるのではないかと、逆ですよ。アジアの選手に負けるような選手じゃどうにもならない」

 犬飼専務理事も語っていたが、アジアの経済成長力を日本のサッカーに取り込み、日本サッカーのさらなる発展を促すためにも、アジア枠の創設は避けては通れない事案だった。
 JクラブにクラブW杯出場という目標ができた今、資本力で欧州勢に水を空けられたままでは、彼我の差は半永久的に埋まらないだろう。

 フォーブス誌によればマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)が約1700億円、レアル・マドリード(スペイン)が約1200億円の資産価値を誇るのに対し、浦和レッズは300億円程度と見られる。
 Jリーグ規約によって事実上、上場が認められないのならば、別の方法で外資を呼び込む努力をするべきだ。

 アジア枠の創設によりアジアマネーが流入し、Jリーグの台所が潤うのなら、それは悪い話ではない。
 サッカーはグローバルビジネスである。国際競争力を常に念頭に置くべきだ。日本からアジアへ、そして世界へ――。成長なくして分配はない。
 イングランドのプレミアリーグは今、空前の外資ブームに沸いている。海外の投資家や資本家たちが巨額の放映権料を目当てに、こぞってビッグクラブを買いあさっているのだ。

 チェルシーのロマン・アブラモビッチに始まり、マンチェスター・ユナイテッドのマルコム・グレーザー、最近ではマンチェスター・シティが元タイ首相のタクシン・チナワットに買収された。
 外資が流れ込めば、当然リーグのレベルは上がる。
 その結果が2年連続での欧州チャンピオンズリーグ席捲である。今季もまたベスト4のうち3つのイスをプレミア勢(マンチェスター・ユナイテッド、リヴァプール、チェルシー)が占めたのだ。

 欧州における外国人選手枠を見てみよう。セリエA(イタリア)、リーガ・エスパニョーラ(スペイン)、プレミアリーグ(イングランド)、ブンデスリーガ(ドイツ)、エールディビジ(オランダ)――いわゆる5大リーグのどこもEU加盟国に所属する国の選手は自国の選手と同じ扱いを受ける。

 ヒトもモノもマネーも自由に国境を飛び越えるグローバルな時代を迎え、日本も極東の端っこに縮こまっているわけにはいかない。
 しかし、日本一国では何をやるにも限界がある。そこで成長するアジアのマーケットを取り込むための第一歩がアジア枠の創設なのだ。

 中国の選手が中国マネーを連れてくる。インドの選手がインドからの投資を活発化させる。こういう時代が一日も早くやってくることがJリーグの成長を加速させるのだ。
 だがグローバルな時代は、マーケットに魅力が失われればヒトもモノもマネーもすぐにどこかへ行ってしまう。その典型的な例が日本のプロ野球だろう。

 毎年のようにスター選手の流出が相次ぎ、この4月にはFA権を取得した巨人の上原浩治がメジャーリーグ挑戦を表明した。
 FA制度は巨人が他球団からエースや4番バッターを集めるために導入した制度だったが、その巨人から4番バッター(松井秀喜=ヤンキース)とエース(上原)が抜けるとはナベツネ氏も夢にも思っていなかっただろう。私に言わせれば、改革を怠ったツケがスター選手のメジャーリーグ流出というかたちで表れてしまっているのだ。

 本当はJリーグに先駆けてプロ野球界こそアジア枠創設に動くべきだった。もちろん韓国や台湾球界と意見を調整することは大切だが、共存共栄の発想で対処していれば、今頃はアジアの有望な選手たちが日本のプロ野球を盛り上げていたかもしれない。
 改革が後手後手に回るプロ野球は、ある意味、Jリーグにとっては反面教師と言えるのではないだろうか。

(この原稿は『FUSO』08年6月号に掲載されました)

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