21試合を終えて、石川ミリオンスターズは9勝9敗3分、勝率5割です。この数字が表している通り、現在のチームはいい風が吹きつつあるものの、まだまだ悪い流れを完全には断ち切れてはいません。今後どちらに転んでもおかしくない状況の中、指導者としては選手に隙をつくらせないようにしなければ、と気持ちを引き締めています。
 石川は昨季、リーグ優勝を果たし、目標だった初年度チャンピオンに輝くことができました。選手たちは1年間やってきたことが実を結んだことで「自分たちは間違ってはいなかった」と自信をつけたことと思います。

 さらに、オフには盗塁王の内村賢介(山梨学院大附属高−JFE西日本)が東北楽天に育成枠ながらドラフトで指名されるというビッグニュースもあり、チームは大いに盛り上がりました。もちろん、一番刺激を受けたのは選手たちでした。石川ではオフの期間、ほぼ全員が県内に残り、朝早くから午後3時まで働き、夕方からトレーニングを続けていました。そんな時に内村のドラフト指名のニュースが伝えられ、もうその瞬間から選手たちの目の色を変わりました。チームメイトがNPBへの道を切り開いたことで、現実味を帯びてきたのでしょうね。

 ところが、人間というのはやはり時間が経つと、忘れてしまう生き物なんですよね。選手たちには徐々に気の緩みが生じてきてしまいました。特に2年目の選手は、慣れからでしょうか、昨季、ゼロからスタートした時のようなひたむきさが薄らいできてしまったように感じられます。そこへ新しく入ってきた1年目の選手たちも「こんなもんでいいのか」と、緊張感がないままスタートしてしまった感は否めません。

 それが開幕してからの成績にも表れているのです。技術的には他球団との差はそれほどあるとは思っていません。いえ、逆に我々のチームが一番正しい練習をしているという自負さえあります。しかし、気力や必死さという部分では残念ながらまだまだと言わざるを得ません。

 石川は守りからリズムをつくるチームです。しかし、優勝した昨季は72試合でリーグ最少の70個だった失策は今季、既に21試合で27個を記録しています。その内容も、積極的にいった結果ではなく、いわゆる凡ミス。しっかりと準備ができていないため、いざ打球が来ると、慌てて捕球して慌てて送球する。それが失点を招く痛恨のエラーとなってしまうケースが多々あります。

 各球団のレベルは昨季と比べて間違いなくレベルアップしています。打球のスピードも速くなっており、守備が難しくなってきていることは確かです。だからこそ、一番重要なのが“基本に忠実なプレー”。打球を待つ構えから捕球、送球という動作の流れを毎日の練習で体に染み込ませる。それが今のチームにはまだ不足しているのです。

 それでも、選手たちはここにきて必死さを取り戻しつつあります。そのきっかけとなったのが1日の金沢市民野球場で行なわれた富山サンダーバーズ戦の始球式に参加してくれた古田敦也さんの言葉でした。
「このリーグはNPBを目指す若者にとって、最後に与えられたチャンスの場。だからもし、このリーグでダメだったら夢を諦める。そんな覚悟をもってやらなければいけない」

 試合後、一緒に食事をした際、古田さんが私たち指導者にそう言ったのです。早速、私はそれを選手たちに伝えました。長年、NPBの一線で活躍してきた大選手の言葉に、皆、はっとさせられたようでした。

 まだまだシーズンは始まったばかり。徐々にではありますが、選手たちは結果としても練習の成果を出し始めています。最終目標である10月の「地区チャンピオンシップ」「BCリーグチャンピオンシップ」「グランドチャンピオンシップ」を目指して、チーム一丸となって戦っていきますので、これからも応援よろしくお願いします。


中居殉也(なかい・じゅんや)プロフィール>:石川ミリオンスターズコーチ
1972年5月14日、石川県出身。金沢高時代には1年夏と3年春の2度甲子園に出場。91年にドラフト外でダイエー(現ソフトバンク)に入団。95年に現役引退後、ブルペン捕手2軍バッテリーコーチとしてダイエー、ソフトバンクを支えた。07年より石川ミリオンスターズのコーチに就任した。


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