「何が起こるかわからない」のがサッカーではあるが、まさか“世紀のジャイアントキリング”を目のあたりにすることになるとは――。

 1996年7月22日、米国マイアミ。アトランタ五輪予選リーグ日本対ブラジル戦。私は75ドルでオレンジボウルのバックスタンド左隅2階席のチケットを買った。

 奇跡を演出したのは夕闇に生じた一瞬の死角だった。

 ウイングバック路木龍次が左サイドでボールをキープし、相手DFの背後にロングクロスを送り込む。ワントップの城彰二が、そのボールを執拗に追いかける。

 と、その時である。城よりも一瞬、速くボールに追いついたブラジルのセンターバック、アウダイールがヘディングによるバックパスをしようとして、飛び出してきたGKジーダと衝突してしまったのだ。

 ボールは坂道を転がるように芝の上を滑り、そのままブラジルゴールへ。オウンゴールかと思われた瞬間、ペナルティーエリア内に詰めていたボランチの伊東輝悦がスルスルとボールに迫り、右足インサイドで慎重に蹴り込んだ。後半27分の出来事である。

 この虎の子の1点を日本は守り切った。

 特筆すべきはGK川口能活の守りだ。ブラジルのアタッカーたちから、何と28本ものシュートを浴びながら、ついに一度もゴールを割らせなかった。俗な言い方をすれば、川口の肩には「神」が降りていた。あの夏から早いもので12年がたつ。


※二宮清純が出演するニッポン放送「アコムスポーツスピリッツ」(月曜19:00〜19:30)好評放送中!
>>番組HPはこちら



◎バックナンバーはこちらから