7月5日、南関東大会がはじまりました。初戦は、昨年オープン戦を3回戦い、1勝2敗の松戸が相手です。今年は都市対抗出場を決めた企業チームに延長戦の末2対1で敗れる好ゲームをしており、前評判は我がチームが劣勢でした。
(写真:試合前のミーティング)
 結成3年目の初出場チーム、相手は格上とあれば、チームができることは全力でぶつかることしかありません。
 試合開始前、ベンチで着替えをしている選手たちに、監督が言いました。
 「着替えとかあるだろうから、こっち向かなくていい。自分のことやりながら耳だけ貸してくれ。
 今までこれなかったひとつ上のランクの大会に来ることができた。お前たちのがんばりや。この大会でも、やることはいつもと一緒。全力プレーや」
 いつの間にか選手全員が着替えをするのをやめて、監督をじっと見つめていました。
 不思議と落ち着いた空気の中、監督が選手に語りかけるように言いました。
 「ええか、勝つぞ」
 「よっしゃー!!」
 浮き足立つこともなく、気合いが前面に出た選手たちは、グラウンドへ飛び出していきました。

 後攻の我がチームは、1回裏打者一巡で3得点。しかし1回以降、2回から5回まで、0行進が続きます。
 気温は30度を超えており、選手は暑さとの戦いにもなりました。特に先発ピッチャーの疲労が心配でした。南関東大会まで勝ち上がってきたチームとあれば、3点差などいつひっくり返されるかわかりません。緊張感がさらに消耗を早めます。現に、5回で3対2と、1点差まで追い上げられていました。

 消耗が否めない先発矢筒の交代時期がベンチでも持ち上がるようになりました。投げ終わるごとにすぐベンチ裏に直行し、パイプ椅子に座り、冷たいタオルで頭から顔までを覆ったまま微動だにしない矢筒に、コーチが状態を聞きます。
 「いけるか?」
 「いけます」
 ピッチャーの少ない我がチームは、この試合で矢筒が投げきれば、次の試合は先発にエースをたてることができます。明日の試合を見据えた気合のピッチングは選手の気持ちをひとつにし、とうとう9回を迎えました。
 6回、7回に1点ずつを加え、迎えた9回表、スリーアウトを取ると、チーム全体に喜びというより、安堵感があふれました。埼玉県予選決勝はギリギリのところでのサヨナラ勝ち。負けたチームのためにも、1回戦で負けるわけにはいきませんでした。

 「ナイスゲームやったな」
 監督からのうれしい言葉には、もう満足できない状態でした。全国へ行きたい、そのためには明日も勝たなければ!
 チーム全員の気持ちは試合が終わった時点で、明日の試合に向けられていました。


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広瀬明佳
福島県郡山市出身。母がソフトボール、兄が野球をやっていたことから中学・高校時代ソフトボール部に所属。大学時代軟式野球サークル。前職での仕事をきっかけに初めて硬式野球の道へ。現在、埼玉県内の硬式野球クラブチームに所属。チームの紅一点として奮闘中!

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