プロ野球のキャンプが始まった。実績のあるベテランにとっては調整の場だが若手は首脳陣に自らの成長をアピールしなければならない。そこで問われるのがコーチの能力だ。
 著者は書く。「人を育てるというのは教える側と教わる側の共同作業である」。選手の向上心と指導者の情熱、技術が結合してはじめて成果は得られるというわけだ。
 ところが最近、サラリーマン的なコーチが多くなったと著者は嘆く。「練習のための練習」を選手に強いたり、監督に「自分はやっていますよ」とアピールする“上目遣い”のコーチの下では伸びる選手も伸びない。保身や言い訳の上手なコーチは選手を育てる上での障害物だと喝破する。
 また著者は「褒める」と「おだて」は似て非なるものだと説く。前者は「傑出して秀でたものを認める」作業で選手は次への励みになるが、後者は職務放棄であり、そこに愛情を見出すことはできないと手厳しい。
 著者は監督時代、コーチに「あきらめずに、育ててくれ」と言い続けたという。指導者としての醍醐味を味わってもらいたかったからだ。厳しくも優しい眼差しがそこにある。 「野球再生」(広岡達朗著・集英社インターナショナル・1600円)


2冊目は「健康業界ビジネスがわかる」( ヘルスビズウォッチドットコム編・技術評論社・1480円)。「納豆でやせる」を謳い文句に内容を捏造した番組が打ち切られた。行き過ぎた健康ブームの弊害か。真贋を判断するには消費者側に情報が要る。分類され、読みやすい。

3冊目は「ラストサムライ 片目のチャンピオン武田幸三」(森沢明夫著・角川書店・1500円)。少年時代の苦しい生活、完膚なきまでの敗戦、目の手術……。試練を乗り越えた男のキックはズシリと重い。元ムエタイ王者でK-1のリングにも立つファイターの半生記。

<この原稿は2007年2月7日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
◎バックナンバーはこちらから