17日に号砲が鳴る北京五輪女子マラソン。五輪2連覇の期待がかかっていたアテネ金の野口みずき(シスメックス)が欠場を発表し、日本からは土佐礼子(三井住友海上)、中村友梨香(天満屋)の2選手が出場する。
 コースは天安門広場前をスタートし、世界遺産の天壇公園、長安街、北京大、清華大の大学地区を回ってメインスタジアムの国家体育場に戻る42.195km。
 全体的に起伏の少ないフラットなコースだが、伝えられている路面の硬さが気になる。また高温多湿を考えるとハイペースの展開になることは考えにくく、優勝タイムは昨夏の大阪世界陸上同様、2時間30分前後になりそうだ。

 アテネ五輪5位、昨夏の大阪で銅メダルを獲得した土佐は、豊富なレース経験と安定感が持ち味だ。特に土佐を指導する鈴木秀夫監督が常々、「悪条件になるほど強さを発揮する」と口にするように、暑さやコースのタフさといった悪条件の中での土佐の粘り、我慢強さは素晴らしいものがある。昨夏の大阪世界陸上の経験もモノをいうだろう。

 アテネ五輪では野口のスパートに対応できず、メダル争いに加わることができなかった。悲願の五輪メダルへの思いは誰よりも強いはずだ。レースの流れにのるうまさもある。土佐とともに北京へと向かった夫・村井啓一氏のサポートも心強い。「最後までメダル争いについていって、最後は良いゴールをイメージしたい」と語っているように、大阪で見せた驚異的な粘りでメダルを手にしてほしい。

 22歳の新鋭・中村友梨香(天満屋)は、選考レースの3月の名古屋国際女子マラソンに続く2度目のマラソンとなる。経験は浅いが、1万メートルで五輪派遣標準A記録を切るタイムを持つスピードが武器。上下動の少ない流れるような走りも、路面が硬いといわれる北京のコースでは強みとなる。名古屋では冷静な走りで並みいる実力者を抑え、優勝を果たした。自分からレースを組み立てることはないだろうが、うまく流れに乗り、勝負どころでスピードの切り替えに対応できれば、メダルは見えてくるだろう。

 日本勢の最大のライバルとなりそうなのは、アテネ五輪銀、ヘルシンキ世界陸上銀、昨夏の大阪世界陸上金のキャサリン・ヌデレバ(ケニア)、昨夏の大阪世界陸上銀の周春秀(中国)だろう。両者ともに2時間20分を切る自己ベストタイムを持ち、高温多湿という外的条件を省けば、実力的には土佐、中村の一段上といえる。
 特に周は、2006年ドーハ・アジア大会では酷暑の中を独走で優勝、さらに昨夏の大阪では、不調が伝えられていたにも関わらず、最後まで優勝争いを演じ、銀メダルを獲得した。今回は地元開催とあって、声援にも背中を押されるはず。万全のコンディションでスタートラインにつくことができれば、金メダルにもっとも近い存在といっていいだろう。

 世界最高記録を持つポーラ・ラドクリフ(英国)もエントリーしているが、脚の怪我などで調整の遅れが伝えられている。アジア特有の気候に慣れるため、8月上旬からはマカオで最終合宿を行っているそうだが、やはり昨夏の大阪を経験しているヌデレバ、周、土佐に比べると分が悪いのではないか。

 このほか、周以外の中国勢、ワミ、アデレのエチオピア勢、世界歴代4位の記録を持つカスター(米国)らもメダル争いに絡む力を持っている。

 コースの特徴から、勝負どころと見られるのは、急に道幅が狭まりカーブが多くなる28〜31キロの大学地区、またはコース上唯一の起伏といえる34キロ地点と見られている。
 このあたりで、誰かが仕掛けることになるのか。あるいは、厳しいコンディション下でのサバイバルレースとなるのか――。
 女子マラソンは、現地時間の朝7時半(日本時間8時半)にスタートする。
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