北京五輪野球の予選リーグが終了し、星野仙一監督率いる日本代表は4勝3敗、4位で準決勝へとコマを進めました。現段階では五輪最後となる野球で日本が目指しているのは金メダルただ一つ。明日からは一つも負けられない厳しい戦いが待っています。星野ジャパンにとって、まさにここからが正念場です。
 さて、予選の7試合を終えての率直な感想を言うと、本来の実力を遺憾なく発揮している選手と、逆になかなか発揮できていない選手とがはっきりしているということです。
 例えば、今回初めて代表に選出された中島裕之(埼玉西武)は攻守にわたっていい動きを見せてくれています。ケガを負っている川崎宗則(福岡ソフトバンク)に代わってショートのレギュラーを務めたかと思えば、昨日の米国戦では本調子ではない村田修一(横浜)に代わってサードに入りました。攻撃でも打順が目まぐるしくかわっているにもかかわらず、どの打順でも結果を残しています。首脳陣にとっては、非常にありがたい存在です。

 また、ケガでなかなか試合に出られていなかった川崎も、昨日の米国戦では久しぶりに途中出場し、元気な姿を見せてくれました。彼はいつも人一倍声を出し、周りを鼓舞してくれます。そんな川崎のようなリーダーシップがとれる選手がグラウンド内にいるのといないのとでは、チームの勢いは全く違ってきます。強敵の米国相手に延長10回まで無失点に抑えられたのも、内野がそれほど引き締まっていたということが大きな要因の一つとして考えられますが、これも川崎の貢献度が大きいと思います。

 投手陣も頑張っていますね。特にプレッシャーのかかる場面で登板がまわってくることが多い藤川球児(阪神)や上原浩治(巨人)の安定感が光っています。
 ダルビッシュ有も初戦のキューバ戦では4回7安打4失点と打ち込まれてしまいましたが、決して調子が悪いというわけではないと思います。キューバの打者が予想以上に振ってきたことで、少々面食らった部分があったのでしょう。これまで経験したことがないほど、外野の頭を越されるような長打を簡単に打たれてしまいました。また、審判がどこまでストライクにとってくれるかを自分の中で整理する前に打たれてしまったことも大きかったかもしれませんね。

 しかし、予選リーグ最終戦の米国戦では2イニングながら好投しました。細かいことを気にせず、どんどんストライクを取りにいくピッチングができていましたから、もう心配することはないでしょう。

 一方で本来の実力を出せていない選手もいます。特に気になるのが村田ですね。北京に入るまでのレギュラーシーズンでは本塁打を量産し、本当に絶好調でした。それだけに五輪での活躍も期待されていましたが、予選では21打数2安打1打点と絶不調に陥りました。

 村田は日本を代表するスラッガーですが、チームバッティングもできる器用な打者です。しかし、今回はその器用さがゆえにチームバッティングを意識しすぎて、村田本来のよさが出ていないのです。これはG.G.佐藤(西武)にも同様のことが言えます。村田やG.G.佐藤のよさとは、もちろん思いっきりのいいスイング。準決勝では三振を怖がらずに、チームを勢いづけるような彼ららしいバッティングを見せてもらいたいですね。

 さて、昨日の米国戦で負けたことで日本は準決勝で韓国と対戦することが決定しました。キューバの方がやりやすかったのでは、という声もありますが、キューバだろうと韓国だろうとどちらも強いことに間違いはありません。それよりも勝利で予選リーグを締めくくり、いい流れで準決勝に入って欲しかったですね。

 明日の韓国戦で重要なのは、まず先制して早めにリードを奪うことです。予選では逆転負けを喫していますが、日本の投手力と守備力をもってすれば、逃げ切ることは難しくありません。逆に、先行されてしまうと逆転することは非常に難しくなります。絶対に負けられない一発勝負であれば、いつも以上に打者にプレッシャーが重くのしかかってきますから、なおさらです。

 そのためには1、2番の出塁率がカギとなるでしょう。西岡剛(千葉ロッテ)も調子を上げてきていますが、思い切って体も万全で上り調子の荒木雅博(中日)を1番に起用してみてもおもしろいかもしれません。

 予選を通じて感じたのは、選手たちがあまりにもチームを意識しすぎているのではないかということです。「個あってこその和」とでもいうのでしょうか。個の強さを発揮してこそ、本当に強いチームが出来上がるのです。目標がずれていなければ、チームがバラバラになることはありません。先述した村田やG.G.佐藤もそうですが、もっともっと選手たちは自分を前面に出してプレーしてもらいたいですね。

 決勝トーナメントに残った4チームの力は拮抗しています。どこが優勝してもおかしくはありません。日本が勝つためには相手がどうのという前に、日本らしい野球ができるかどうかにかかってくると思います。ぜひ、悲願の金メダルを獲得して凱旋帰国してくれることを願っています。 

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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