最初に断っておくが、名所旧跡はできるだけ大切に保護しなければならないと私は考えている。しかし、果たして土地は死者だけのものなのか。生者にモノを言う権利はないのか。敢えて挑発的な物言いをしたのは名所旧跡を前にするとスポーツはあまりにも無力だからである。

 1950年に制定された文化財保護法には、こう謳われている。<史跡名勝天然記念物に関しその現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければならない>。言うまでもなく文化庁は文部科学省の外局である。文化財保護、活用のための国の年間予算が約380億円であるのに対し、スポーツ関連予算は半分の約190億円。元Jリーガーで参議院議員(無所属)の友近聡朗氏は「スポーツも人類のかけがえのない文化と考えれば格差があり過ぎるのではないか」と語っていた。

 私の故郷・愛媛には愛媛FCというJ2のクラブがある。昨季、1試合あたりの観客動員数は3704人で下から2番目。ホームスタジアムはアクセスが悪く、とりわけ交通弱者である高齢者や子供には不便だ。そこで繁華街から徒歩10分で行ける市内中心部の公園(かつては市営球場や競輪場があった)にスタジアムを建設するよう呼びかけているのだが、全く埒が明かない。公園のある区域は国の史跡に指定されており、無関係な施設の建造は認められなくなってしまったのだ。
 かつて西鉄ライオンズが本拠地とした平和台球場も球場の下から古代の迎賓館「鴻臚館」跡が見つかったため廃止に追い込まれてしまった。史跡とスタジアムの共存、すなわち過去と現在、そして未来の連携は不可能なのか。

 不況からの脱出策として財政出動の必要性を声高に叫ぶ政治家が増えてきた。今さら道路やダム建設といった従来型の公共事業を増やしたところで効果は極めて限定的だろう。どうせ公共投資をするのなら、老若男女誰もが喜び、地域が活気づく「スポーツ・ニューディール政策」のようなものを考えるべきではないか。その際、文化財保護法に基づく規制は緩和させるのもひとつの手だろう。スポーツを振興することで、沈みがちな国民の士気を高めるのも国の仕事のひとつのはずである。

<この原稿は09年1月7日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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