千葉ロッテが1巡目に指名したのは、190センチの長身左腕・木村雄太投手(東京ガス)。木村投手にとっても意中の球団からの最高の評価を得ての指名だった。だが、ドラフト直後の会見で彼から笑顔を見ることはできなかった。その理由は消したくても決して消すことのできない過去にあった。2007年3月に発覚したいわゆる「西武裏金問題」だ。野球を続けていく限り、木村投手はこの過去から逃げることはできない。それでも彼は言う。「一度も野球を辞めたいと思ったことはない」と。微塵の迷いもないその表情からは会社、チーム、そして野球に誠実に向き合ってきた彼の姿が垣間見えた。
―― ロッテから1巡目に指名されたときの瞬間の気持ちは?

木村: 1巡目とは思っていなかったので、ちょっと驚きました。嬉しいというよりも、やはりホッとしたというのが正直なところです。

―― 日本選手権の関東予選のときには、まだプロに行くかどうか、決めかねていた。最終的にプロに行こうと思った理由は?

木村: 指名されてからも非常に悩みました。菊池(壮光)監督からは「できれば残ってもらいたい」と言われましたし、僕としてもチームを都市対抗にも日本選手権にも連れていくことができずに終わってしまって、非常に悔いが残っていたんです。でも、野球をやっている以上はプロを目標にしていますし、せっかく最高の評価をしてもらったのですから、自分としてはやはり「行きたい」という思いが強かった。それに、僕を支えてきてくれた人たちの期待にも応えたかったんです。いろいろと迷惑をかけてきましたから……。 最終的には自分の気持ちに正直にいこうと。それで今年、プロ入りすることを決めました。

―― 昨年は謹慎と対外試合出場停止処分を受けた。どんな1年だったのか。

木村: 絶えず周りに申し訳ないという気持ちでいっぱいでした。会社やチームのために少しでも役に立とうと、自分は何ができるのか、何をしなければいけないのかを考えながら、裏方に徹しました。

―― 野球から離れなかった理由は?

木村: その場から逃げたからってどうなるものでもありません。逆に逃げたら後悔だけが残るし、これまで支えてきてくれた方々の恩を仇で返すようなもの。逃げるのではなく、きちんと謝罪し、反省しようと。それが最良の筋の通し方だと思いました。だから一度も野球を辞めようとは思いませんでした。

 08年3月3日、東京農業大学とのオープン戦で約1年ぶりにマウンド復帰を果たした木村投手の心は、まるで少年のように躍っていた。「野球が楽しい」。緊張よりも何よりもそう思えた。そして「チームのために投げよう」という気持ちが沸々とわいた。苦しい1年間が木村投手の心を成長させていた。

―― 処分を受けている間に自分が変わったと感じる点は?

木村: 投げられなかった1年間は、本当にしんどかったし、あの事件で沢山の方に多大な迷惑をかけました。でも、そのことで自分が成長できたとも感じています。自然と自分のことよりも周りのことを考えられるようになってきました。それまでは自分が優先ではなかったにしても、半々くらいでした。今は何よりもまずチームのためという気持ちでいます。あの事件があったからこそ、今の自分があるのかなというふうにも思っています。

―― ようやく処分が解けて、復帰したときの気持ちは?

木村: マウンドに立ったとき、ワクワクしました。投げていて、楽しいなと。やっと戻ってこれたという気持ちでいっぱいでした。とにかく自分のことよりも、チームのために今年1年間は頑張ろうと思いました。ピッチングの内容がどうであれ、結果的にチームが勝てれば、それでいいと。僕にとっては三振の数よりも、チームがリードしている状態で9回のマウンドに立てるのが一番嬉しいんですよ。自分を信頼して監督さんが任せてくれたわけですから。監督やチームメイトが喜んでくれるのが一番です。

―― 自分にとって野球とは?

木村: 人間的に成長させてくれるものです。野球をやっていると上下関係もありますし、いろいろな人たちとのつながりができる。そういう中で社会人としてのマナーを身につけさせてくれたと思っています。

 34といえば木村雄太!

 高校時代から「和製ランディ・ジョンソン」と謳われ、期待の大型左腕としてプロからも注目されてきた木村投手。だが、彼が選んだ進路はプロでも大学でもなく、社会人という道だった。

―― “ランディ・ジョンソン”と呼ばれることについては?

木村: さすがにもう今は遠慮したいですね(笑)。正直、恥ずかしいんです。高校時代、それで全国の方に知ってもらえたというのはありますが、やっぱり自分の名前で覚えてもらいたいなという気持ちはありました。

―― 現役のプロ野球選手で対戦したことがあるのは?

木村: 高3の時、母校が50周年記念で横浜高と東北高を招いて練習試合をしたことがあるのですが、その時の横浜のエースが成瀬善久(ロッテ)でした。当時の彼の印象は……僕と同じ人見知りをするんだろうなぁと(笑)。だから、なかなか話すことができなかったですね。

―― 当時からドラフト候補にあがっていたにもかかわらず、社会人の道を選んだ理由は?

木村: 高校の時はそこまでプロに行きたいとは思っていませんでした。行くとしても、どこか挟んで行きたいなと。自分にはまだ早いと思っていましたから。大学は金銭的にしんどかったので、それならお金のかからない社会人に行こうかなと。高校のコーチが社会人出身だったので、話はいろいろと聞いていました。だから、社会人ならではの魅力も感じていたんです。その中で環境の整っている東京ガスを選びました。グラウンドが都内にありますし、あれだけの設備が自由に使えるというのが何よりも魅力的でした。

 ロッテの背番号34といえば、日本球界唯一の400勝投手、金田正一だ。今季からその34を背負う木村投手。球団の期待が背番号からもひしひしと伝わってくる。果たして、偉大なる先輩を超える投手となれるのか。

―― 即戦力として期待されていると思うが。

木村: 期待はされていると思いますが、そういうことにあまり敏感にならずに、足元を見てしっかりとやっていこうと思っています。自分自身も実際にやってみないと、自分の力がどこまで通用するかはわからないので。昨季はスピードよりもコントロールを重視したピッチングを心がけていましたが、プロではどういうスタイルでいくかはまだわかりません。どういうふうにやっていったらいいのか、いろいろと試しながらその方向性を導き出していくつもりです。ただ、自分の最大の武器はやっぱりこの身長ならではの角度のついたボール。その特徴をどうやっていかしていくかがポイントとなってくると思います。いつかは背番号34といえば、「木村雄太」だとファンからも認めてもらえるような結果を残したいですね。

―― プロとしての目標は?

木村: 数字とかタイトルには、こだわりはないです。ただ、チームが日本一になれれば、おのずと自分の結果もついてくるのではないかなと思っています。重要なのは、長く野球を続けること。だから、40歳を過ぎても現役で投げている方々には、いろんなことを聞いてみたいです。

―― 今、改めて思うことは?

木村: 僕は、落ちるだけ落ちたので、あとは上がるだけだと思っています。人生には浮き沈みはつきものですから、これからもいろいろあると思います。でも、悪い時こそいかに我慢して上がるのをじっと待つことができるか。野球も人生もそうだと思うんです。それと、ああいうことがあったからこそ、より人のあたたかみを感じることができた。やっぱり野球って一人じゃできないんだなと。誰かの支えがあるからこそ、できるんだなと。だから、その人たちに恩返しがしたいんです。そして、今度は自分が子どもたちに何ができるかを考えていこうと思っています。

 人は過去を消すことは決してできない。だが、次へのステップとすることはできるはずだ。木村投手は過去の過ちを素直に認め、反省し、そしてそれを成長の糧にしてプロへの道を切り拓いた。今後、彼がどのようなプロ野球人生を歩んでいくのか。彼の一挙手一投足に全国のプロ野球ファンが注目している。

<木村雄太(きむら・ゆうた)プロフィール>
1985年5月21日、秋田県出身。秋田経法大付高(現・明桜高)では2年夏からエースとして活躍。2004年、東京ガスに入社。06、08年には補強選手として都市対抗に出場。06年には横浜から3巡目指名を受けたが、同社に残留することを決意した。07年は3月に発覚した西武からの金銭供与問題で1年間の対外試合出場停止処分を受ける。08年3月に実戦復帰。ロッテから1巡目指名を受け、3年越しにプロ入りを果たした。190センチ、80キロ。左投左打。

(聞き手・斎藤寿子)

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