欧州王者マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)の優勝で幕を閉じたクラブW杯2008。アジア王者ガンバ大阪は準決勝でマンUと対戦し、3対5で敗れはしたものの健闘した。試合内容とは別の観点で興味深かったのが、ガンバMF遠藤保仁のペナルティキック(PK)の場面だ。

 マンUのGKは元オランダ代表のエトヴィン・ファンデルサール。世界屈指のGKだ。身長197センチ。マンUが誇る“不落の砦”である。一方の遠藤はプロ11年間で3度しかPKを外したことのない日本を代表する“PK職人”。世界屈指のGK相手に彼の技術は通用するのか。

 スタジアムに無数のフラッシュが輝く。遠藤は小刻みなステップでボールに近づき、鋭く右足を振り抜いた。ゴールマウスで両手を大きく広げ、仁王立ちのファンデルサール。抑制のきいたグラウンダーのキックがゴール左隅を襲う。横っ飛びのファンデルサール。ボールは定規で測ったかのように、GKの右手の下を通過した。
 かろうじてゴールネットを揺らしたものの、オランダ人は完璧に遠藤が蹴るコースを読みきっていた。もし、遠藤のキックがもう少し弱いか、あと数センチでもズレていたらガンバの2点目は消されていただろう。

 サッカーにおけるPKは武道に相通じるところがある。相手との呼吸をはかり、間を読み、一瞬のスキを突く。つまり本来、日本人が得意としなければならないプレーなのだ。09年度より移行する中学生の新指導要領では武道が必修となる。これはサッカーのみならず球技全般にいい影響を与えるのではないか。秘かに期待している。

(この原稿は09年1月14日付『産経新聞』に掲載されました)

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