去就が注目されていた横浜ベイスターズのエース三浦大輔の横浜残留が決定した。
 三浦が奈良の出身ということもあって、地元の阪神タイガースが猛アタックをかけていたが、結局は元のサヤにおさまった。
「高校時代(奈良・高田商)も打倒天理や打倒智弁学園で甲子園に出たいと思ってやっていた。(横浜は)今年優勝から一番遠い位置だった。三浦大輔の原点に戻ってもう一度強いチームとやって勝ちたい」
 残留記者会見の席で、三浦はこう語った。

 阪神ファンは残念だろうが、セ・リーグのためにはよかったのではないか。
 今季の横浜は48勝94敗2分けの勝率3割3分8厘でブッチ切りの最下位。ただでさえ弱いのにエースまでいなくなったら、どうするのか。
 来季のセ・リーグは開幕前から最下位だけは決まっているようなものである。これでは興ざめだ。三浦の横浜残留は、上位3球団(巨人、阪神、中日)との戦力格差を、これ以上拡大させないための小さな歯止めになるのではないか。

 三浦とともに去就が注目されていた中日ドラゴンズの中村紀洋は東北楽天ゴールデンイーグルスへの移籍が決まった。
 移籍に際しての中村の弁はこうだ。
「クライマックスシリーズに出場するために全神経を集中させて、何とか野村さんを胴上げしたい」
 楽天はサードが泣き所だった。ホセ・フェルナンデスがレギュラーを張っていたが守備がお粗末で、ピッチャーの足を引っ張ることもしばしばだった。
 野村克也監督のフェルナンデス評は「いらねえよ。球団にも伝えてある」と辛辣の一言。
 サードを補強したい楽天とレギュラーの座を確保したい中村。これこそ相思相愛の移籍劇だった。
 ちなみに楽天がFA選手を獲得したのは球団創設4年目にして、初めてのことである。

 FA(フリーエージェント)制度が導入されたのは1993年のオフである。FA移籍第1号は松永浩美(阪神−ダイエー)だ。
 FA権獲得の条件は145日以上の出場選手登録されたシーズンが9年に到達すること。今季から資格取得年数を国内移籍に限り9年から8年(08年以降入団した大学、社会人は7年)に変更された。
 FA制度が導入されて以来15年間の歩みを見ていると、次の3つの傾向に気がつく。
 まずひとつは、この制度を利用しての国内移籍はパ・リーグからセ・リーグ、あるいはセ・リーグからセ・リーグが圧倒的に多いということだ。
 パ・リーグからセ・リーグ、セ・リーグからセ・リーグへ移籍した選手がこれまで25人であるのに対し、パ・リーグからパ・リーグ、あるいはセ・リーグからパ・リーグへ移籍した選手は13人。この制度の恩恵に浴したはパ・リーグではなくセ・リーグだったということができる。

 2つ目としてFA移籍は特定の球団に集中していることがあげられる。多い順に言えばジャイアンツが12人、ホークスが7人、タイガースが6人、ドラゴンズが5人。財力、人気のある球団にFA移籍は偏っている。
 私が危惧するのは先述したように、今季からFAによる国内移籍が8年に短縮されたことだ。これにより、伸び盛りの選手がFA市場に出回ることになる。
財力、人気のある球団にとっては好都合だろうが、育てた選手を片っ端から引き抜かれる方はたまったものではない。NPBはこれ以上の戦力格差をもたらさないために知恵をしぼるべきではないか。
 メジャーリーグではFAで選手をとられた場合、セレクション(ドラフト)で優遇されるなどしてバランスをとっている。具体的にいうとAランク(ランク付けは直近2シーズンの成績を元に行う)の選手を失った球団は、移籍先球団の1巡目指名権を譲り受け、加えて補償ラウンド指名権(1巡目と2巡目の間に指名できる権利)も1つ得られる仕組みになっている。日本も早急に格差是正策を打ち出すべきだろう。

 3つ目はメジャーリーグの球団へ移籍する選手の増加だ。
 FA制度の導入に最も熱心だったのは巨人の渡邉恒雄球団会長(当時読売新聞社社長)だった。この制度を導入すれば、有力選手のほとんどが巨人に集まると考えていたフシがある。まさか、これだけ多くの選手が海を渡るとは思ってもいなかったはずだ。
 それだけに巨人の4番・松井秀喜がFA制を利用してヤンキースと契約した時はショックだったはずだ。そして今度は上原浩治が……。
 FA制がある限り、人材の海外流出にストップがかかることはありえない。「高いレベルでやりたい」という選手の意思にフタをすることはできない。しかし損失補填についてはもう少しメジャーリーグと踏み込んだ話をした方がいいのではないか。外交官出身の加藤良三コミッショナーの出番である。

<この原稿は2009年1月13日号『経済界』に掲載されたものです>

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