バラク・オバマ米国大統領の報酬が40万ドル(約3700万円)と聞いて「安い」と思ったのは私だけだろうか。そこでオバマ大統領と同程度の報酬を得ているプロ野球選手を探すと小谷野栄一(北海道日本ハム)、長谷川昌幸(広島)…。外国人ではチェン(中日)、シーボル(広島)らがそうだ。

 ちなみにメジャーリーグにおける最高給取りはヤンキースのA・ロッドことアレックス・ロドリゲス。2008年から球団と総額2億7500万ドル(当時約300億円)の10年契約を結んでいる。年俸に換算すれば約2800万ドル(同約30億円)だ。
 そのA・ロッドが薬物使用を正式に認めた。本人によれば01年から03年までステロイドを使用していたという。これを受けてオバマ大統領は「大リーグの歴史を汚した」と苦言を呈した。メジャーリーグ最高の年俸をステロイドが支えていたとまでは言わないが、ステロイドなくして数々のタイトルを手にすることはなかっただろう。

 話は変わるがメジャーリーガーの年俸が大統領の報酬を初めて超えたのは1930年のことだ。前年の29年は世界恐慌が始まった年だが、ヤンキースのベーブ・ルースは10度目のホームラン王を獲得している。その功績が認められ、ついに年俸は8万ドル(当時約16万円)に達した。
 当時の大統領はハーバート・フーバー。大統領の年俸を超えたルースのもとには「棒っきれを振り回すだけで大統領よりも高給を得られるなんて、この国はどうかしている」といった批判が寄せられたという。だがルースは全く意に介さなかった。それどころか「オレは大統領よりもいい仕事をしているゼ」と言い返した。事実、ルースの豪快なホームランは不況に沈む米国人に夢と希望を与えた。

 一方のフーバーは恐慌に対して有効な手を打てなかったことで後世の歴史家の評価も高くない。関税を引き上げるなどして保護主義に走り、第二次大戦の一因をつくったとされている。歴史は後にルースの発言の正しさを証明したのだ。
 50年後、米国の歴史家はA・ロッドとオバマの年俸格差をどう総括するだろう。メジャーリーグを愛する者としては悲観的にならざるを得ない。

<この原稿は09年2月18日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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