アイランドリーグは2009年、節目の5年目を迎える。過去4年間でNPBに17名の選手を送り込み、選手育成では一定の評価を得た。また、1試合で1万人超の観客を集めた試合も出るなど、地域密着のチーム運営も成果を見せ始めた。昨季は福岡と長崎の2チームを加え、エクスパンションもはかった。とはいえリーグと球団は赤字経営に悩むなど、課題もある。リーグのこれまでと、これからを鍵山誠CEOに直撃した。

――昨年は九州の2球団を加え、四国・九州アイランドリーグとして新たなスタートを切った1年でした。6球団体制の初年度はどのような評価を?
鍵山: 開幕前は四国、九州間の移動が入ったことで試合開催に支障が出ないか心配でしたが、思ったよりもスムーズにシーズンを終えることができました。何より6球団にエクスパンションしたメリットは大きかったと思っています。単純に考えても4から6に規模が拡大したわけですから、一般企業なら前年比50%の伸び。これは非常に大きな成長だと考えています。
 中でもNPBを目指す選手たちの受け皿となり、しっかり育成できたことは良かったと感じています。これまでは4球団で毎年30〜40人の新人を加えて、約100名の選手を抱えてきました。これが6球団に増えたことで、昨年は60〜70人が新たにリーグに入り、全部で約150人の選手に指導ができるようになりました。我々は決して恵まれた環境とは言えませんが、約7、8カ月間、野球だけに専念できる。こんなところはNPB以外では独立リーグしかありません。野球を続ける場所を多くの若者に提供でき、結果として昨年も6名が夢をかなえることができました。
 見逃せないのは、結果としてドラフトにはかからなかったものの、候補として名前の挙がった選手が非常に増えたこと。これは実戦を重ねることで選手のレベルが年々向上し、リーグの育成システムがいい方向に向かっている証拠と考えています。

 リーグのアイデンティティは何か

――反省点は?
鍵山: 九州の2球団を中心に観客動員が伸ばせなかったことです(1試合平均の観客数は長崎515人、福岡498人、リーグ全体では886人)。それがチームの経営を圧迫してしまいました。もう少し開幕前の準備が必要だった感は否めません。
 もちろん長崎、福岡ともフロントのみなさんは「大丈夫」という認識だったのでしょう。ただ、四国でリーグを立ち上げた時を振り返れば、100%の準備ができていても想定しないことが次々と起こる。結局は200%くらいの準備をしておかないと、1年目から軌道に乗せていくのは難しいのです。これは現場にいた人間にしかわからない。
 こういった経験やノウハウをもっと早く九州のチームに伝えるべきでした。結局、試合を運営するだけで精一杯で資金調達やスポンサーの獲得、地域密着の活動など、本来フロントがやらなければいけないことに力を注げなかった。

――四国の1年目と同じ轍を踏んでしまったわけですね。
鍵山: もしかすると誰もが一度は通る道なのかもしれないですけどね。四国でも1年目は担当者レベルも経営サイドも全員が「いける」との感覚を持っていました。でも、それは幻想に近いものだった。実際にはそんな甘いものではなかったんです。今後もリーグではエクスパンション構想がありますが、これでもかと準備した上で、経営基盤を確立しない限り、参入させるのは厳しいのかなと改めて思いました。結果的にリーグが融資をするチームも出てしまいましたが、途中離脱なく今年も6球団でシーズンをスタートできる。広い意味で6球団体制は成功したと総括できるでしょう。

――反省点を踏まえて、今年のリーグの取り組みを教えてください。
鍵山: ひとつは九州と四国の連携を密にすることです。先程もお話したように、先行している四国の経験を九州へフィードバックできていない。人の交流、情報の共有をもっと進めていく必要があります。
 もうひとつは「アイランドリーグとは何か」というアイデンティティを再確認することです。今年は関西にも独立リーグが誕生します。BCリーグも含めた3つのリーグの中で、アイランドリーグの理念、追求すべきものは何なのか。全員の方向性を1つにしなくてはいけないと感じています。

 選手育成と地域密着は車の両輪

――鍵山CEOが考えるアイランドリーグのアイデンティティとは?
鍵山: 我々には2つの理念があります。ひとつは選手育成。ここは他のリーグに負けないという気概を持っています。独立リーグのチャンピオンシップも2年連続で日本一になりましたし、ドラフトで指名された人数も一番多い。この4年間で、NPBに一番近いリーグだと多くの方にアピールできたと思っています。この点は今後も変えるつもりはありません。
 もうひとつは地域貢献。地元のみなさんに愛され、応援していただけなければ球団は成り立たない。ただ、野球を好きでやっているだけではダメなんです。地域の中で球団がどういった位置づけで、どんなに役立っているかをしっかり示さなくてはいけません。ここは5年目を迎える四国の4球団がある程度、進んでいるとみています。今年は九州の2球団がいかに地元の信頼を得るかがポイントになるでしょう。
 この2つの理念は車の両輪です。どちらかでも欠ければ、アイランドリーグはアイランドリーグじゃなくなります。ともすれば、選手育成に視点が移りがちな部分を、きちんと2つの理念が同じ速度で進むようにバランスをとる。それがリーグ全体のテーマになると考えています。

――理念は素晴らしいと思います。実際に四国に来ると、球団を応援するのぼりがあちこちに立っていて地域に愛されていることがよく分かる。ただ、全国のみなさんに、それがきちんと理解されているかとなると疑問が残ります。アイランドリーグとBCリーグを比較すると、「選手育成=アイランドリーグ」と「地域密着=BCリーグ」とのイメージがあることは否定できません。
鍵山: 地域密着の試みは情報発信自体がどうしても地元向けになります。野球に限らず、情報発信力の弱い四国と、政令指定都市があって地理的にも東京に近い北信越を比べれば、アイランドリーグの取り組みが伝わらないのは仕方ないでしょう。
 もちろん2つの理念を両方知ってもらえればベストです。でもリーグのウリを中央に対して発信するのであれば、それは選手育成でいいと考えています。全国的にはガチンコで選手を鍛えてNPBに送り込むリーグで、地元では地域に根ざして活動しているリーグだと伝われば問題ないのかなと。

 大きな政府から小さな政府へ

――お話にも出ましたが、今年は関西独立リーグが誕生します。神戸に入団する吉田えり選手が、かなりメディアで取り上げられていますね。おかげで独立リーグが日本に3つあることは世間に認知されたと思うんです。ただ、アイランドリーグも、もっとアピールしなくては埋没してしまうとの声がある。
鍵山: だからと言って、全国向けの話題づくりに労力を注げばいいのでしょうか。もし、吉田さんをアイランドリーグの球団が獲得したとしても、あれほどの報道量にはならなかったはずです。関西には準キー局も、大阪版のスポーツ新聞もある。四国にはそれがない。都市型の関西リーグで地方型のアイランドリーグでは、いくら努力してもアピール力で劣ってしまうのです。前提となる土俵が違うのですから、求めるものも違って当然です。我々の力ではどうにもならない部分にいくらエネルギーを注いでもメリットはありません。

――世界的な不況でアイランドリーグでも残念ながらスポンサーから撤退する企業も出ていると伺っています。スポンサーへのアピールを考えれば、それなりのイメージ戦略は必要では?
鍵山: スポンサー獲得にあたって、イメージは本質的な問題ではありません。目先の話題づくりで協賛をいただいても、それは長続きしないでしょう。やはり深いところで理念に共感し、リーグを応援したいと感じていただけることがスポンサー獲得ではもっとも大切な要素です。
 幸いアイランドリーグには長い目で見守っていただけるスポンサーさんがたくさんいらっしゃいます。こんな時代だからこそ、単なる話題づくりで大口のスポンサーさんを集めるよりも、たとえ少額でも10年、20年支えていただけるスポンサーさんを獲得していくべきだと思っています。その意味でもアイランドリーグの理念、アイデンティティがぶれてはいけないのです。

――リーグも各球団も今年度も単年黒字が厳しい状況だとうかがっています。観客動員を増やすことに加え、リーグスポンサー、チームスポンサーの確保は重要な経営課題です。
鍵山: リーグスポンサーの獲得に関しては我々も努力していくつもりです。でも将来的なことを考えれば、リーグスポンサーからの分配金に頼る球団経営は好ましくありません。額も大きいだけに、大手が撤退すればリーグ全体が共倒れということになりかねない。
 それよりも地元チームを応援するチームスポンサーをどんどん増やして、各球団が身の丈で経営できる環境を整えることが大切です。チームスポンサーが増えれば地域密着度も高まりますし、地域密着度が高まればチームスポンサーも増えます。
 これまではリーグが各球団の面倒をみる“大きな政府”でした。これからは“小さな政府”への転換が求められています。いかにそれぞれの球団が地元に足をつけて“自立”できるか。そして、リーグがそのサポートをしながら、どのタイミングで権限を委譲してスリム化するか。ここが次の5年間のリーグのカギになると思っています。


鍵山誠(かぎやま・まこと)プロフィール>:株式会社IBLJ代表取締役社長
 1967年6月8日、大分県出身。徳島・池田高、九州産業大卒。インターネットカフェ「ファンキータイム」を手がける株式会社S.R.D.(徳島県三好市)代表取締役。アイランドリーグ関係では05年5月、徳島インディゴソックスGMに就任。同年9月からIBLJ専務取締役を経て、07年3月よりリーグを創設した石毛宏典氏の社長退任に伴って現職に。07年12月より四国・九州アイランドリーグCEOに就任。


<愛媛、香川が広島と初対決!>

 香川オリーブガイナーズと愛媛マンダリンパイレーツが3月に広島2軍と交流試合を行うことが決まった。広島は四国からもっとも近いNPB球団だったが、過去4年間、一度も対戦がなかった。これでアイランドリーグ勢はNPB全12球団と一通り試合を実施した形になる。

 広島にはリーグ初年度のドラフトで入団した中谷翼内野手(元愛媛)が在籍。昨季は1度もなかった1軍昇格を目指している。香川の西田監督はカープOBで、愛媛の監督時代に中谷を指導し、NPBへ送り込んだ。中谷が出場することになれば、縁のある2球団と対戦することになる。

<広島−香川戦、試合概要>
【日時】 3月17日(火) 12時30分
【場所】 広島東洋カープ由宇練習場
【料金】 無料

<広島−愛媛戦、試合概要>
【日時】 3月18日(水) 12時30分
【場所】 広島東洋カープ由宇練習場
【料金】 無料


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