スポーツは公共財であって企業の私物ではない。そんな当たり前のことが、企業の論理の前では通じない。今から10年前、誰よりもそのことに憤った男がいる。

 その男の名前は前田浩二。当時、横浜フリューゲルスのキャプテンをやっていた。

 1998年12月、横浜フリューゲルスは出資会社である佐藤工業の撤退を受け、横浜マリノスとの電撃的な合併に踏み切った。

「エッ、本当なのか? 全く聞いてなかったので信じられない思いでした」。前田はこう語り、続けた。「Jリーグの理念って、いったい何なのか。10年は赤字覚悟でやるとリーグも言ってたじゃないですか。それが全て反故にされてしまって……」

 1999年元旦。消滅が決定していたフリューゲルスは清水エスパルスを2対1で下し、天皇杯を勝ち取った。多くの選手が涙するなか、ひとり怒りに肩を震わせていたのが前田だ。
「(親会社の)全日空も過ちに気付いたでしょう。我々は合併の不当性をフェアにアピールできた。プライドの勝利です」

 メディアはフリューゲルスの勝利を「有終の美を飾った」と美化した。こうしたお涙頂戴的な報道が、前田には許せなかった。だからこう語ったのだ。「マスコミは優勝を美化して、その後ちっとも報道してくれなかった。それが悔しかった。問題は何も解決していないのに……」

 100年に一度の経済不況を受け、10年前と同じ現象がこの国のスポーツ界で起きている。スポーツは誰のものなのか。再び、そのことが問われている。

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