Jリーグのシーズンは日本サッカー協会の犬飼基昭会長が提唱する「秋開幕、翌春閉幕」のいわゆる秋春制が正しいのか、それとも現行の春秋制が正しいのか――。
 協会の専門委員会である「Jリーグ将来構想委員会」(鬼武健二委員長=Jリーグチェアマン)は先頃、「(秋春制に)移行しない」との結論を出したが、犬飼会長は継続審議を主張している。

 およそ考えられる秋春制のメリットは次の5つ。
1. 7、8月の酷暑での試合を避けることで、プレーの質が向上する。
2. サッカーの中心である欧州の日程に合わせることで国際試合の日程の組み方や移籍が容易になる。
3. 代表強化のスケジュールづくりがスムーズになる。
4. 芝生が荒れる可能性が低くなり、いいグラウンドコンディションでゲームができる。
5. プロ野球のシーズンと重ならないため、メディアへの露出が増加する。

 続いて秋春制のデメリット。
1. 7、8月は夏休みにあたるため入場料収入が多く、Jリーグが開催されなければ大幅な収入減となる(2007年のリーグ全体の入場料収入約150億円のうち、7、8月は約35億円)。
2. 雪国の場合、降雪や厳寒期に耐え得るインフラの整備が必要になる(すなわち設備投資が増える)。
3. アジアの国際大会は春秋制にあわせているため、どちらにしても代表のスケジュール調整が求められる。
4. 一般的な日本の年度スケジュールは4月始まり、3月終わり。その違和感が払拭できない。
5. 大学・高校の日程とズレがあるため、新加入選手の入団にブランクが生じ、チーム編成に影響を及ぼす。

 スポーツ専門誌「Number」(09年4月2日号)に載った犬飼会長と鬼武チェアマンの意見を紹介しよう。

犬飼 いいサッカーをしていこうという前提で、7月、8月にいいサッカーをやれているのか、お金をとれるようなサッカーをやっているのか、を考えると、酷いんですよ。これだけ湿度が高くて、温暖化によって気温が上昇しているなかで選手はたまらないですよ。冬にやればいいサッカーができます、絶対にバリバリ走れますと、選手も言っているし。札幌の選手に聞くと、涼しいところで練習をやっている影響で、5月以降に本州で試合をやると、のぼせちゃってダメですと。真夏に試合をやるのは大変で、シーズンを変えてくれたら札幌もチャンスですと選手が言っていた。

鬼武 外国の例を見るとね、ほとんどがウインターブレイクをとっている。ヨーロッパだと、12月から1月に、あるいは1月から2月の上旬まで、1カ月半から2カ月くらいブレイクがある。逆に7、8月は涼しい。だから7月下旬からでもリーグ戦が始められて、ウインターブレイクが取れる。しかし日本の場合は、ウインターブレイク期間中の練習場の確保などの問題が浮上する。そういうことを踏まえて、日程を組むとどうなのか。(いずれも一部抜粋)

 05年まで現役でプレーしていた相馬直樹は私にこう語った。
「選手からすれば、早く秋開幕にしてほしいと思います。夏は暑くてたまらないというのは、現実問題としてありますよね」
 一方でガンバ大阪の指揮を執る西野朗はこう語った。
「いや、冬にやるのもきついですよ。大阪のような気候だったら冬でもいいと思いますが、地域によってはどうでしょう。ハードが充実していないところではお客さんは減るでしょうね」

 この問題については、以前、前サッカー協会会長の川淵三郎氏にも訊ねたことがある。川淵氏の意見は「最終的には秋春制への移行が望ましいが、ハード面が整備されていない現段階では時期尚早」というものだった。
 おそらく、これが大方のサッカー関係者の意見なのではないだろうか。ならば、どれくらいの期間をかけて秋春制に移行するかを議論すべきだろう。
 移行に伴い、雪国のクラブの財政負担が重くなるのなら、協会が移行コストの一部を助成することも検討しなければなるまい。

 Jリーグのシーズン移行問題の陰には日本のスポーツ施設の貧弱さも見え隠れする。雪国でスタンドに屋根のかかったスタジアムは数えるほどしかない。ヒーティングシステムについては、シャレではなく“お寒い限り”だ。
 現時点で問題解決の特効薬はないが、外野から見ていて思うのは自治体や行政にも意見を求めたらどうだろう。地域や住民にとってスポーツとは何か。最終的にはそこが問われているような気がする。

<この原稿は2009年4月21日号『経済界』に掲載されたものです>

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