過失割合という言葉がある。主に交通事故における過失の度合いを表す際に使われる。野球においても同じことが言える。低迷の責任を負うべき割合はフロントが何割で監督やコーチが何割で選手が何割か。アバウトではあっても算定基準のガイドラインくらいは作るべきだ。
 横浜・大矢明彦監督が成績不振を理由に「休養」を命じられた。事実上の「解任」だ。13勝24敗、勝率3割5分1厘という成績ではやむを得まい。反転攻勢に打って出るために指揮官を代えるのはひとつの手だ。

 昨年のオリックスもそうだった。成績不振のテリー・コリンズ監督が5月中に辞任し、後任(監督代行)に大石大二郎ヘッドコーチを昇格させたところ、これが見事にはまった。大石バファローズは54勝40敗1分けの好成績で2位に浮上、クライマックスシリーズに進出した。危機に際して最悪なのは不作為、つまり何もしないこと。その意味で指揮官交代は理解できる。ただフロントの責任はどうなるのか。

 たとえば扇の要のキャッチャー。現在はルーキーの細山田武史がマスクをかぶっている。正捕手の相川亮二がFAで移籍したのは仕方ないとしても、昨年6月、来季の相川の去就がわからないにもかかわらず、2番手の鶴岡一成を巨人にトレードする必要があったのか。見通しの甘さは否めない。

 先頃、MLBナ・リーグ西地区で快進撃を続けるドジャースの指揮官ジョー・トーリが『さらばヤンキース』という本を上梓した。トーリはヤンキース時代4度、チームを「世界一」に導いた名将だ。

 暴君ジョージ・スタインブレナーオーナーとの確執の件が興味深かった。オーナー批判の一方で、意外な告白も。<「でも、あの人(スタインブレナー)は会って話を聞いてくれる。私はテッド・ターナー(ブレーブスオーナー)のもとでも、オーガスト・ブッシュ(カージナルスオーナー)のもとでも働いたことがあるが、ジョージのもとで働くほうが楽だった。話を聞いてもらう場があるからね。話ができるし、会いにも行ける。自分の意見を伝えることもできる。ほかの2人は、声すらかけられなかったよ」>(前掲書)

 まずもって指揮官とフロントに必要なのはビジョンとミッションの共有だ。これが一丁目一番地。横浜球団は一度、原点に立ち返る必要がある。

<この原稿は09年5月20日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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