二宮: 井口資仁選手のバッティングフォームを見ていて、非常に気になることがあるんです。それは左足の位置なんです。後ろに引きすぎていませんか。
:   はい。良くないですね。そのせいで左肩の入りが少ないからね。
二宮: そうですよね。
:   無意識のうちにちょっと上体が開き気味になるよね。だから、グリップとボールの位置が近すぎちゃうんだよね。
 バッティングではバックスイングしてバットがボールに当たった瞬間のグリップの位置が大事なわけ。グリップがボールに近ければ近いほど、パンチ力がなくなるんだよ。ボクシングでも相手に近いところで打つと、ダメージが小さいでしょ。引いたところから打つほうがパンチ力が出る。グリップとボールの位置関係もそれと同じですよ。要するに、ステップし終わって、バットを振り出すぞ、という時の手の位置が大事。

 つまっても押し返す意識を

二宮: 井口選手は左足が開いているから、踏み込めないということですね。
:   そうです。プロの世界には、つまっても押し返そうという意識がないといけないんです。キレイに打つことばかりを考えていても、生きていけないんです。つまろうが、ヘッドで打とうが、外野へ押し返すことが必要ですね。井口なんかは、それができないから、今プロの洗礼を受けているんです。

二宮: そうですね。いまひとつ成績が上がらないですね。
:   人間というのは、常に変化していかないといけない。高校時代の井口、大学時代の井口、プロの井口、とレベルアップが求められますよね。良い素質を持っていることは確かなんです。あとは、プロのレベルに自分をどう順応させていけるかですね。
「俺はこの打ち方でいくんだ」という希望が通用する世界じゃない。毎年、相手バッテリーの攻め方も違ってくるんですから。イチローなんかでも、この4年間で毎年バッティングフォームが変わっていますよ。

二宮: 本当に随分、変わっていますよね。
:   それは、バッターが受け手だからなんです。ピッチャーが投げてきた球をどう打つかですからね。

二宮: 王さんは、打撃に関してはつまりポイントはできるだけ前にして、つまっちゃいけない、ということをおっしゃりたいわけですよね。
:   そうです。

二宮: コーチの中には、つまっても逆方向に打つほうが良いという考え方の人もいますが……。
:   僕はクリーンアップは別だと思いますね。3、4、5番はとにかく、つまるということを嫌がらないと、長打力は出ない。

二宮: 長打力を磨くために、心掛けたことって何かありますか?
:   僕は体全体を使って打つタイプだった。腕力だけで打つタイプではなかった。力がないんだから、その方法しかなかったよね。外国人を見ると、喧嘩しても絶対に勝てないと思うからね。だから腕力のある外国人と同じやり方でやってもダメだから、スイングも随分やったし、体の切れも保つように心掛けた。パワーだけじゃ打てないんだから……。

 選手はエリートとしての自覚を

二宮: 王さんは現役時代、酒たばこは?
:   たばこも吸いましたし、酒も飲みました。酒といってもビールですけどね。

二宮: メジャーリーグの選手なんかは、アルコール類はほとんど飲まないですよね。
:   日本の選手も昔に比べたら少なくなりましたよ。自己管理がしっかりできています。たばこを吸う人は多いですけどね(笑)。僕も現役時代、飲んでいたから今の選手に「やめろ!」とはなかなか言いづらいんだけど、できれば現役のうちはなるべく控えた方がいいよね。せいぜいビールをグラス1、2杯にして、食欲増進程度に飲んでほしいね。
 でも僕が40歳近くまで現役でいられたのは、酒とたばこがストレス発散になっていたからなんだよね。マンネリにならないように、向上心とか闘争心を常に人より多く持っていようと心掛けた。だから、コンディションを悪くしないようにするための酒たばこは少しくらいなら必要かもしれないですね。
 僕は野球以外のことには、ことさら疎かったんですよ。それだけ野球のことだけを考えるようなリズムを意識してつくってきた。

二宮: 王さんは監督生活も長く経験されています。監督をされていると、酒たばこの量も増えるんじゃないですか?
:   それはないですね。体調が悪くなりますからね。

二宮: 「あのヤロー」みたいな感情になる時ってないですか?
:   思わないですね。ただ選手にはもう少し欲を出してほしい。せっかくプロのユニフォームを着ることができたんだから、もったいないよ。1軍選手なんてこの前、計算したら、30万人に1人の確率なんですよ。誰でもプロ野球選手になれるわけではないんだ。

二宮: そうですよね。本当に選ばれた人たちの集まりですよね。誇りを持たないといけない。
:   そうそう。僕は飯を食べるためだけだったら、何もこんな厳しい世界に入ってくることはないって選手に言うんですよ。我々はエリート集団なんですよ。エリートにはエリートの果たすべき役割があるんですよ。エリートは頑張らないといけないんです。

二宮: メジャーリーグの考えも王さんと同じですよね。球団幹部は選手にこう言いますよ。「オマエたちは選ばれた人間なんだ。オマエたちには国民に最高のパフォーマンスを見せる義務がある。だから球団は国民にいいパフォーマンスを見せるためにオマエたちを管理する」と。
:   そういう点では、我々は管理が足りないですね(笑)。

二宮: 日本の場合は、いわゆる管理野球と、球団として必要な管理を混同しているような気がするんです。
:   まあ確かに。監督も本当は、試合だけ勝たせる、という本来の仕事に徹することができれば一番良いんでしょうね。後は選手たちが好きにやってくれよと。
 そうすると、選手たちの力をどう結びつければ勝てるのか、効率よく点を取れるだろうか、というのを考えるのが監督の仕事になってくるよね。そのために取る方策は管理でも何でもないよね。勝つための戦術だよね。

(おわり)
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<この記事は1997年9月に行われたインタビューを構成し、99年11月に掲載されたものです>
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