二宮: 最近、サッカー界は世代交代が顕著です。かといってベテランの経験を軽んじていると痛い目にあうような気がします。
北澤: その辺はここのところ本当におかしくなってきているなと思います。例えば、若い選手とベテランの選手が同じレベルだったら若い選手を使う傾向がありますね。
二宮: 年齢は関係ない。1ミリでも力のある方を使うほうが公平ですね。
北澤: もう、その時その時が勝負ですからね。グランドは教育の場じゃないんです。

 大切なのは距離感

二宮: 北澤さんのサッカー観というか、キャプテンとして目指したい理想のサッカーは?
北澤: 個人的なことよりもチーム全体のバランスのこととか、距離感を大切にしていますね。だから、個人技を見ることよりも、団体競技として見るほうが優先です。いろんなタイプの力を持った人間が上手く機能して、それが重なるとすごく大きな力になるチームの方が好きですね。

二宮: ヴェルディ川崎の全盛期はそういうチームでしたね。楽しいサッカーをしているけど、ベーシックとなるものはしっかりしていて、お金を出しても観に行きたいというチームでした。
北澤: チームのみんなが動けて、ちゃんとボールを止められて蹴ることができて、守れて人の助けもしてあげられる。そんなサッカーができていましたからね。

二宮: 今までの中でナンバーワンだと思った指導者はだれですか? 95年から96年まで監督をしていたネルシーニョとほとんどのヴェルディの選手が口を揃えて言います。
北澤: そうですね。ネルシーニョは人によっては「嫌い」っていう人もいました。人それぞれ合う、合わないがあると思いますけど、僕は人それぞれの良さを学んでいきたいと思うんですよ。そうすることによって新たに生まれてくるものがあったから。

二宮: ネルシーニョの後に監督になったレオンにも強さというか、鉄の規律みたいなものはありましたね。今、ヴェルディで総監督をされている李国秀さんは、レオン的なところもネルシーニョ的なところもありますか?
北澤: ありますね。いろんな要素を持っていますよ。

二宮: 北澤さんは高校卒業後、本田総研、ヴェルディとプレーしてきて、もうベテランの域に達していると思います。サッカーは年をとればとるだけおもしろくなるって言いますよね。
北澤: 今まで見えなかったものが見えてきたりしておもしろいですよ。

二宮: たとえば?
北澤: 経験によって先が読めてくるんです。だから1つ2つ先を考えられるプレーができるようになった。

 名波は距離感No.1

二宮: 先ほど理想とするサッカーに“距離感”というのが出てきたんですが、これは経験とかセンスによるものですよね。俗に言う“間合い”ですか?
北澤: はい。それは守備の時もそうだし、攻撃の時のパスの出し方もそうです。パスの出し方って距離によって変わってきますから。

二宮: 距離感をつかめるかつかめないかっていうのが、一流になれるかなれないかの差になるんでしょうね。では、この人の距離感は凄いなって思った選手は?
北澤: 一番は名波(浩)ですね。

二宮: 相手がなかなか間合いに入れない?
北澤: 入れないし、プレッシャーにもいけない。元々パスも正確だけど、やっぱり先が見えている。ラモスさんもそうでしたね。距離感をつかんでいて、アーティスティックでした。

二宮: 数年前、ラモスさんに話を聞いた時に「サッカーをやっているとだんだん真髄が見えてきて、今が一番うまいんだ」って言っていました。
北澤: 僕もラモスさんに聞いた事ありますよ。「自分、30いくつの時が一番サッカー上手くなった」って。

二宮: 北澤さんが「ここは人に見てもらいたい」というのはどんなプレーですか?
北澤: 切り返しの速さじゃないですか。攻から守にしても、守から攻にしても。そのタイミングで出てくる時というのはいい仕事をしていると思います。

(おわり)
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<この記事は1999年7月に行われたインタビューを構成し、00年1月に掲載されたものです>
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