二宮: あと約1年でシドニーオリンピック。リラックスされているようですし、このまま行けそうですね。
田村: ありがとうございます。2カ月後には世界選手権が控えていますし、これからの2カ月間は練習と合宿の積み重ねで相当キツイと思うんです。でもオリンピックまであと1年なので、緊張感を持ってやっていきたいですね。
 私ね、今の自分は新しく生まれ変わっているんだと思うんですよ。これまで誰もすることのできない経験をしてきたというか。
二宮: たとえるなら「高い授業料を払っている」ような感じですか?
田村: そうですね。今までいい経験をしてきたから今の自分がいるんだと思うんです。やっぱり自分を見つめ直せたことが、生まれ変わる一番の条件だったと思うんで。だから、今は毎日が楽しいです。1日がとても早いですね。

二宮:いい経験とおっしゃいましたが、柔道をやってきて一番良かったことは何ですか?
田村: いくつもありますけど、一番はいろんな人と出会えたことです。人との出会いというのは自分にとって財産ですからね。柔道をやっていなければお目にかかれないような人とも出会えましたし。あとはやっぱり海外の友達かな。柔道を通して友達になって、文通とかもしたりして、すごく楽しいですよ。

 「私はできる」という気持ちを

二宮:日本の子どもたちも田村さんを見て柔道を始めたり、頑張ろうとしたりしていると思います。子どもたちにメッセージを。
田村: 何でもいいから自分のやりたいことをひとつ見つけて、それに向かって頑張る心を持って欲しいですね。「私にはできないや」と投げ出してしまう子が多いと思うんですよ。でも、自分の可能性を信じて「私はできる」という気持ちを持っていれば、自然と頑張る心も出てくるんです。今の子は「勉強だけに集中する」ということも多いんでしょうけど、やっぱりいろんなことに挑戦して欲しいですね。型にはまらないで。
 あとは、挨拶をきちんとして欲しいです。大きな声で挨拶することで自分の存在感をアピールできる。何事も挨拶から始まると思うんですよ。私としては、小学校3年生になったら礼儀作法を身につけて欲しいと思います。

二宮: そういう面では外国人の方がきちんとしていますよね。
田村: そうですね、外国の方は社交的ですし。それに比べて日本の人は閉じこもっている感じがします。恥ずかしがっているというか、オープンにできないところがありますよね。海外の小さい子なんかは自分から寄ってきたりして、すごくカワイイですよ。

二宮: 田村さんはどなたとも仲良く話せますよね。それはやはり家庭環境がよかったからですか?
田村: それはあると思います。母は私が「柔道をやりたい」と言った時以外、何をするにも反対しませんでした。勉強も「やりなさい」と言われたことはないですね。しないんだったらしなくていいし、柔道も辞めたいんだったら別に辞めれば、って感じなんです。やりたいことを自由に、好きなようにやらせてくれて、本当に大きな心を持った人だなぁと思います。もちろん父のことも尊敬しています。家族の協力があってこそ今の私があるんですから。今は私と母が東京で、父と兄が福岡で別々に暮らしているんですけどね。

二宮: お父さんは寂しがっているのでは?
田村: ええ、毎日電話してきます(笑)。でもいつも言うことは決まっていて、「今日はどうだった? そうか。じゃ」ってそれだけなんです。「元気だよ」って言うんですけど、やっぱり心配みたいで。

二宮: そりゃあ心配でしょう。その福岡には、将来的に戻る予定ですか?
田村: 帰りたい気持ちもあります。食べ物も美味しいですしね。特にバアちゃんが作るモツ鍋は天下一品ですよ。この前も3日連続で食べてしまいました(笑)。「ニンニク食べて栄養つけなイカン」ってバアちゃんが作ってくれて。でも、東京でやりたいことが見つかればやっていきたいですね。「チャレンジしたい」と思えるものがあれば、それに精一杯挑戦したいです。きっとやりたいことが出てくると思いますが、今はまだ柔道一本ですね。

(おわり)
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<この記事は1999年8月に行われたインタビューを構成し、00年6月に掲載されたものです>
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