どんなに筋力を鍛え上げたところで、しっかりとボールを目でとらえていなかったらバッターはヒットを打つことができない。
 この視機能を「動体視力」という。さらには「動体視力」には2つの種類がある。<自分に向かって直線的に飛んでくるボールを見るのと、新幹線から駅名を見るのとは、全く異なる動体視力が使われている>のだという。
 どんなに相手を翻弄するテクニックを持っていても、複数の物の位置関係を立体的に認識できる視力がなければ、ゴールに結びつく絶妙のクロスを上げることはできない。この視機能を「深視力」という。このようにスポーツビジョンには8つの視機能がある。重要度はスポーツによって異なるが、トレーニングによって多くのものは向上が可能だという。ならば取り組まない手はない。
 動作のメカニズムは視覚(情報入力)→思考(状況判断、動作決定)→筋(動作)の順で成立する。つまり最初の情報入力の段階でミスがあればそれ以降のプロセスは全く無意味なものとなる。イラストがふんだんに盛り込まれており、初心者にもわかりやすい好著。スポーツ指導者にも一読をお薦めする。
「目力がスポーツを変える! 動体視力トレーニング」( 真下 一策 監修・成美堂出版・1200円)

 2冊目は「察知力」(中村 俊輔 著・幻冬舎新書・740円)。 物事が発生してから対応するのではなく、早めに察知しておいたほうがリスクは少なく、得られる効果も大きい。岡田ジャパンの司令塔はピッチで何を考えているのか。

 3冊目は「視点をずらす思考術」(森 達也 著・講談社現代新書・700円)。「空気を読むことと空気に従うこととは、必ずしもイコールではない」。オウム真理教にも密着した映画監督が、極端な方向へ流れがちな現代社会に警告する。

<この原稿は2008年6月18日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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