前大会に続いての「1番乗り」が濃厚である。
 6月6日から17日にかけて、南アフリカW杯アジア最終予選がクライマックスを迎える。
 日本は現在、A組2位につけ、首位オーストラリアを勝ち点2差で追っている。

 日本の次戦は6日、アウェーでのウズベキスタン戦。この試合で勝ち点3を奪うと、2試合を残してグループ2位以上が確定、本大会への出場が決まる。
 この試合のキックオフ時刻は日本時間23時。オーストラリアは同日にカタール戦(アウェー)を控えているが、この試合のキックオフは7日の午前1時。
 つまり、日本がウズベキスタンに勝てば、自動的に「1番乗り」となる。

 4年前も、日本は「1番乗り」を決めた。
 05年6月8日、場所はバンコク・スパチャラサイスタジアム。大一番の日本対北朝鮮戦は無観客試合で行なわれた。
 ジーコ率いる日本は柳沢敦や大黒将志の活躍で2対0と快勝。危なげなくドイツ行きのチケットを手に入れた。
「世界を驚かせる」
 ベスト4を目標に掲げ、ドイツへと旅立ったジーコジャパンだが、周知のように2敗1分けで予選リーグ落ち。「1番乗り」はから騒ぎに終わった。
 少し気になったので、過去のW杯予選で「1番乗り」を決めた国(開催国、前回優勝国を除く)の本大会での戦績を調べてみた。
<06年 ドイツ大会>
 日本 グループリーグ敗退(2敗1分け)
<02年 日韓大会>
 カメルーン グループリーグ敗退(2敗1分け)
<98年 フランス大会>
 ナイジェリア 決勝トーナメント1回戦敗退
<94年 アメリカ大会>
 メキシコ 決勝トーナメント1回戦敗退
 このように結果はどうも芳しくない。
 ヨーロッパの列強のように厳しい予選をくぐり抜けた方が、よりチームはたくましさを増すのである。

 そこへ行くとB組は理想的な戦いを繰り広げている。
 韓国、北朝鮮、サウジアラビア、イラン、UAE。W杯出場経験国のみで構成されたB組は予選前から激戦が予想され、実際にシビアな戦いが展開されている。
 例えば4月1日にソウルで行なわれた韓国対北朝鮮戦。この試合は勝ったほうが首位に浮上する大一番だった。
 キックオフ直後からホームの韓国が押し気味に試合を進めながらも得点を奪えず、0−0で折り返す。
 迎えた後半開始早々、川崎フロンターレで活躍している北朝鮮代表の鄭大世が右足でシュートを放った。それを韓国の守護神イ・ウンジェが右手を精一杯伸ばし、ゴールラインギリギリのところでボールを掻きだす。判定はノーゴール。
 観る人によってはゴールが認められてもおかしくない程際どいプレーだった。北朝鮮ベンチは激しく抗議したが、判定が覆ることはなく、そのまま試合は続行された。
 この語も両軍に得点は生まれず、スコアレスのままホイッスルの時を迎えるかと思われた後半42分。右サイドで得たフリーキックのチャンスで。韓国MFキム・チウがゴール前に上げたボールは誰も触れることなく、直接北朝鮮ゴールに吸い込まれた。劇的ゴールで南北対決を制した韓国がB組首位を守った。
 現在の順位表を見てみると、首位・韓国は勝ち点11で、2位・北朝鮮が勝ち点10。その差はわずかに1だ。しかも3位・サウジアラビアも北朝鮮と並んで勝ち点10。4位のイランも勝ち点6で続いている。
 イランは消化試合数が北朝鮮、サウジアラビアよりも少なく、彼らが6月の3連戦で首位に立つ可能性すらある。
 猫の目のように順位がコロコロ入れ替わるサバイバルリーグ。これがW杯予選の醍醐味だ。

 話を戻そう。2002年の日韓大会まで予選を免除されてきた前回大会優勝国は、本大会まで真剣勝負をする機会がなく、ためにチームの仕上がりが遅れることが多かった。
 連覇を達成した国は1962年のブラジルまで遡らなければならない。
 もちろん「1番乗り」のメリットもないわけではない。本大会への準備期間を長くとることで、有力国の情報を収集することができる。故障がちの選手は準備期間を治療に充てることもできる。
 W杯1番乗りが吉とでるか凶と出るか、その答えは来年6月まで待たなければならない。

<この原稿は2009年6月19日号『週刊ゴラク』に掲載されたものです>

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