プロレス史上、最強(凶)のヒールは誰かと言えば、それは“吸血鬼”の異名で恐れられたフレッド・ブラッシーだろう。

 1962年4月に行われたWWA認定世界ヘビー級選手権では英雄・力道山を血祭りにあげ、日本中を震え上がらせた。力道山ばかりではない。ジャイアント馬場もアントニオ猪木も血の海でのたうち回った。まさにバンパイア(吸血鬼)だった。

 とにかくブラッシーのファイトはセンセーショナルで、相手の頭にガブリと噛みついた瞬間、そこら中で悲鳴が上がったものだ。

 ブラッシーが活躍した時代は、ちょうど白黒テレビからカラーテレビへの移行期でもあった。ブラッシーが噛みついて血しぶきが上がると、マット全体がハレーションを起こしたように真っ赤に染まるのだ。皮肉なことにブラッシーの凶悪ファイトはカラーテレビの販売促進にも一役買った。

 観客からの憎悪を一身に集めることでトップヒールとしての地位を築き上げたブラッシーだが、振り返って考えるに、彼ほどクレバーなレスラーはいなかったのではないか。今となってはすべて計算づくの演技だったことに気づかされる……。

※このコーナーでは各スポーツの栄光の裏にどんな綿密な計画、作戦があったのかを二宮清純が迫ります。全編書き下ろしで毎週金曜日にお届けします。



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