――今までの日本代表は中田英寿選手をはじめ、中盤の選手の活躍が目立つ一方で、FWの選手の得点力が課題だとずっと言われています。

釜本: 問題はFWにどういう選手が選ばれるか。今いる選手は賞味期限が切れた選手ばかりだと思っています。失敗してもいいから半年くらいかけてイキのいい若い選手を起用してもいいと思います。今選ばれている選手は玉田(圭司、名古屋)にしても、大久保(嘉人、神戸)にしても、全部2列目の選手です。
二宮: これはマンガ「キャプテン翼」のせいだと思います(笑)。翼君の活躍で子供たちは中盤がかっこいいと思った。釜本さんを主人公にしたマンガだったら違っていたかもしれませんね。日本はこれまで出場したW杯の3大会で、フランスで中山(雅史、磐田)、日韓で鈴木(隆行、ポートランド)、ドイツで玉田と、FWで3点しか決めていません。FWが1大会に1点しか取れない事実を見ると、中盤や仕組みがどうだという前に、まずここを改善しないといけません、そもそも戦術がどうだとかシステムがどうだとかいうことに日本人はこだわり過ぎです。決定力不足の原因究明を先送りにしてきた。よく「攻撃の形ができていますね」と言いますが、いくら形ができていても、最後にフィニッシュしなかったら意味がありません。

松木: 詰めの甘さはあります。釜本さんの時代に日本サッカーがオリンピックで結果を出し、それからだんだん伸びていく中で、サッカーを良くするには中盤の選手、テクニシャンを作らないと競技として成り立っていかないと考える時代がずっと続きました。だからどんなコーチも、子どもたちにドリブルやパスを中心に教えてきました。ところが今は、どこの国に行っても子供たちにどのポジションの選手でもゴールを意識するサッカーの教育をしています。また、ある外国の有名な監督さんが「いやー、日本のサッカーはすごい。練習した通りにゲームをする」。これは実は皮肉なんですよね。こう動かないといけない、こうしないといけないと枠にはめたサッカーをすると、ヨーロッパや南米の強豪国に勝てる時代はなかなか来ないと思います。まずサッカーはゴールを決める競技だという大前提を小さいうちから教育する必要があります。

二宮: 日本の社会風土も多少原因があると思います。僕は日本のサッカーのことを「稟議書サッカー」とたとえています。稟議書ばかり回して判子を押さない会社ってありますよね。判断はできても決断できず、物事が前に進まない。意味のない横パスは決定の先送りとも言える。(ハンス・)オフトが日本代表になったとき、日本人を本当にほめていました。まじめだしよく練習もする、ディシプリン(規律)もあって素晴らしい。でも一つだけ、ディシジョンスピードが足りないと。決定のスピードを早くしないと点が取れないといったのが、今から15年前ですが、その問題は残念ながらいまだに解決していません。

釜本: 私はサッカーとは戦争だと思っていました。守る人がいて、攻める人がいて、一番最初に飛び込む人が大将を討ち取る。サッカーもこれと同じで、最初に攻め込む人のダメージが一番大きい。守りは自分たちの大将が負けないように、相手をやっつけなきゃいけない。攻める側は蹴られるのは当たり前、それを承知でいくんです。私はゴールに自分が一番近いところにいるんだから、点を取らないといけないと思ってきた。だから今の選手たちの練習を見ていると何をしているのかと思います。ビブスをつけてボール回しをしていますが、あれをオシムさんがやり出したら、今では小中学生も同じことをやっています。球回ししたって試合には勝てません。

二宮: 釜本さんは自分が指示役になって球回しをさせていました。ボールをこう出して、ここに持って来いと。そうしたらおれが決めると。ボールの交通整理をしていました。でも今は、組み立てたものを誰か最後に頼むぞという感じですね。ゴールは逆算式じゃないと取れないんじゃないか……。

松木: 自分がコーチの勉強をしていたとき、釜本さんからストライカー論を聞いたことがあります。「FWが2人いる。おれが一番前にいるが2人マークがついている。もう1人のFWにはマークがついていない。中盤の選手はどっちにボールを出すか」。普通はフリーの選手に出しますが、「いや違う、おれだ。ゴールの確率を考えたら自分だ」と釜本さんはおっしゃった。ストライカーの教育をしていくにあたって、正しいかどうかは別として、ストライカーならそういう気持ちを持っていないとダメです。

二宮: ストライカーには、勝つのはオレだが、負けるのもオレと、試合の責任を1人で負うぐらいの気概が求められる。最近では点を取れなくても、守りで貢献しましたという選手がいますが、これってどこかで逃げているんじゃないかなと思うんです。

釜本: サッカーはいかにシンプルにやるか。だからGKからの1本のパスで点が入れば一番いい。DFがポンと前線に渡して点が入ればいい。だけどそうならないから、相手のディフェンスが少ない方にボールを持っていくんです。崩しかけているのに相手のディフェンスがきたからパスを回そうという発想はすべきではありません。

二宮: 僕は日本のサッカーを野球にたとえて「残塁サッカー」と言うことが多い。どうしてももどかしさが残る。チャンスが増えればゴールも増えるといいますがあれはウソですよ。相手の守りを破ろうとするなら、用意周到な意図と計画が必要で、シュートはたまたまの産物ではありません。チャンスが増えたからといって、点も増えるものではない。ボール支配率が上がったって、得点が増えるとは限らない。そろそろポゼッション信仰から卒業しなければならないと思います。

釜本: 支配率が60対40でも、40が勝つことがよくある。メキシコ五輪の3位決定戦でメキシコとやったときは、70対30くらいの支配率で、ずっと押されっぱなしでした。9人で守って私と杉山(隆一)さんで攻めて、それでも2−0で勝ちました。五輪では6試合で7点決めたんですが、ゴール前で写真を撮ったとき、日本の選手は私しか写っていません。サッカーで一級品と言われる選手は、強い、速い、うまい、そして賢いの4つが揃った選手です。3つまではたくさんいますが、賢い選手はそういない。今何が起こっているのか、そして何をしなければならないのか、判断がきちっとできるかどうか。今の選手たちは相手のゴール前まできているのに、ボールを回してしまう。どうしてなんだろうか。

二宮: シュートの責任を取りたくないんでしょう。

松木: 教え方ではないでしょうか。今のJリーグを見ていても面白くないなと思うのは、同じ教育を受けたコーチや監督が同じような選手を使って同じような試合をしているので、全然特徴が出ないんです。そうなったら、選手個人のレベルが高いチームが勝っていくので、今のJリーグはある程度強いチームが決まっている傾向にあります。だからたとえば10人で守って1人で攻めるように、相手チームやその選手の質を見たときに、戦い方を変えるようになる必要があります。

二宮: 野球と比較するとサッカー指導者のライセンス制度は、はるかに進んでいます。野球は全く経験のない人でも少年野球を教えられる。これは問題の多い制度ですが利点もある。野茂(英雄)やイチローみたいなトルネード投法や振り子打法を得意とする個性的な選手が、サッカーには出てきにくい。これは競技性の問題ではなく、画一的なシステムにも多少、原因があると思っています。

釜本: よく子どもたちを指導する監督さんが、ボールをちゃんと持って、「ちゃんとよく見てパスをして、空いていたらドリブルをしなさい」と練習では言っても、試合で選手がそれをやると「何でボールを持っているんだ、何でドリブルをするんだ」と勝ちたいあまりに矛盾したことを言うんです。変にボールを持っているよりも前へ蹴れとなる。そういう部分も選手の芽をつんでいるかもしれません。

二宮: ある名選手がS級ライセンスを取るために、キックの練習をしていたら「○○さん、申し訳ないが、基本ができていない」と言われたそうです。すべて杓子定規でものを考えると個性まで抹殺しかねない。“角を矯めて牛を殺す”というやつです。

<8月26日に「第10回スポニチフォーラム」内で行なわれた元日本サッカー協会副会長の釜本邦茂氏、サッカー解説者の松木安太郎氏と二宮清純の討論会の内容を抜粋して構成しています>
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