前期に続き、後期も首位を走っています。優勝はもう目前です。混戦の末、最終戦で優勝を決めた前期と比べると、シーズン当初から目指していたスピード野球ができるようになってきました。優勝したことで、選手たちには「やればできる」という裏付けができ、プライドを持ってプレーしています。
 開幕より選手たちには、次の塁を常に狙うように要求してきました。決して打力が強いとはいえないチームにおいて、勝敗を分けるものは少ないチャンスをいかに結び付けるか。そのためには足を使って、1つでも先の塁を奪うことが重要です。

 ところが前期は、こちらが指示をしてもなかなか走れないケースが目立ちました。それでも、どんどん走らせることにより、ようやく選手たちの意識が高まってきています。たとえば、投手がワンバウンドのボールを投げた瞬間に、すぐスタートを切れるようになりました。これは事前に走る心構えができている証拠です。ランナーのみならず、ベンチからも「ワンバンあるよ!」と声が飛んでいます。まだまだ体力、技術では物足りない部分はありますが、考え方だけはプロらしくなってきたと実感しています。

 相手チームにしてみれば、大阪は厄介な相手でしょう。スキあらば盗塁をしかけてくるのですから、投手は打者に集中できません。逆に打者は狙い球が絞りやすくなります。後期は他球団が打倒大阪を目標に掲げ、主力投手をどんどんぶつけてきました。それでも着実に勝利をおさめていることで、余計に選手たちは自信を持って試合に臨めているのではないでしょうか。

 打線をトップバッターとして引っ張るのは、阪神、ロッテなどで活躍した平下晃司兼任コーチです。昨年、オリックスから戦力外通告を受け、NPB復帰を目指して、このリーグにやってきました。彼を1番で起用しているのは、もちろん復帰を視野に入れたものです。平下がNPBに戻れた場合、これまでもそうだったように1、2番、もしくは下位の打順を打つことになるでしょう。ならば、このリーグでも1番を任せて出塁にこだわる打撃をしたほうがよいと考えたからです。

 そして、塁に出ればすぐに盗塁のサインを出すようにしています。彼はもともと俊足の持ち主。武器を磨かなければ、復帰への道は見えてきません。走攻守でより確実性をあげることが求められています。年齢も32歳ですから、よほどのアピールをしないとNPBへのユニホームを着ることは難しいでしょう。ハードルが高い分、厳しいことも言わなくては平下のためになりません。ベンチやグラウンドで叱ることもしばしばです。NPBで実績のある選手を特別扱いしないことで、チームはいい緊張感が流れているように思います。

 1番・平下の固定により、クリーンアップも最近は不動のオーダーとなりました。3番は器用な左打者・山門達矢(京都ファイアバーズ)、4番は勝負強い藤本祐樹(新田クラブ(軟式))、5番はNOMOベースボールクラブで活躍していた平松陽介です。特に藤本は軟式からの転向組。最初は山門、平松がともに左打ちだった関係で、試しに4番を打たせたのがきっかけでした。しかし、日々懸命に練習に取り組み、着実に結果を残しています。まだまだ主砲と呼べるほどの長打力はありませんが、追い込まれても粘り強い打撃が身上です。パワーがつけば、長打力もついてくるでしょう。今後の成長が非常に楽しみです。

 投手陣ではBCリーグ・信濃に在籍していた小坂英が先発ローテーションに定着しました。彼は長い腕を活かしたサイドスローが特徴で、ブルペンではいいボールを放っています。ところが実戦になると、そのピッチングができません。こちらの目には、小坂がせっかくの特徴を生かすことなく、漠然と投げているように映りました。

 そこで僕は、ある時期からしばらく彼を試合に登板させない決断を下しました。マウンドに上がるためには何が必要か、自分で気づいてほしいと思ったからです。この荒治療は効果がありました。小坂は何が足りないのかを考え、チームメイトにもいろいろ聞くようになったのです。再び試合で使った時には、1球1球、丁寧なピッチングを心がけ、変化を遂げていました。後期は既に2勝をあげ、結果も残しています。

 藤本や小坂のように、1年間で大きく成長した選手はチーム内にたくさんいます。来季以降が本当に楽しみです。経営の問題もあり、今後については不透明な部分もありますが、ぜひこれからも彼らと一緒にさらなる進歩を目指したいものです。大阪のみなさん、ファンのみなさん、どうぞ応援よろしくお願いします。


村上隆行(むらかみ・たかゆき)プロフィール>:大阪ゴールドビリケーンズ監督
1965年8月26日、福岡県出身。大牟田高を経て、84年ドラフト3位で近鉄に入団。2年目でショートのレギュラーをつかみ、打率.274、16本塁打の成績を残す。翌年には22本塁打をマーク。長打力を生かすため外野に転向し、猛牛打線の一翼を担った。01年、西武へ移籍して代打の切り札的存在に。同年限りで引退。解説者生活を経て、今季より大阪の監督に就任。現役時代の通算成績は1380試合、916安打、打率.258、147本塁打、464打点。






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