負けそうで負けない。落ちそうで落ちない。
 最大で借金が8あり、3位の埼玉西武に一時は5.5ゲーム引き離されていた東北楽天がしっかりと3位の座をキープしている。

 球団創設5年目で初めてクライマックス・シリーズに出場すれば、とりもなおさず、それは野村克也監督の功績だろう。
 だが周知のように、ノムさんが指揮を執るのは今季限り。そのことについては島田亨オーナーのはっきりと明言している。
 だが、これがノムさんにはおもしろくない。三度の飯より野球が好きなノムさんにとって、ユニフォームを脱がされることは死刑宣告にも等しい。
 だから開幕前には「優勝して球団を困らせてやる」と悪態をついたのだ。
 そうはいっても、昨年まで4年連続Bクラス。今季もBクラスでは負け犬の遠吠えに過ぎない。球団をギャフンと言わせるには、クライマックス・シリーズの出場権を確保するしかない。

 選手の中にはノムさんと一蓮托生の者もいる。ベテランの山崎武司などがそうだ。
 監督が代われば、今までどおり使ってもらえるかどうかわからない。最悪の場合、戦力外通告を受ける可能性すらある。
「何とか監督の首をつなぎとめなければ……」
 きっと、そんな思いで打席に入っているはずだ。こういう時のベテランはこわい。

 一部スポーツ紙には次期監督として、元西武監督の東尾修氏の名前が挙がっていた。パ・リーグの野球を熟知し、優勝経験もある。加えてピッチャーのスペシャリストとくれば、白羽の矢が立つのは当然だ。皮肉にも、こうした報道がノムさんの反骨心に火を付けたようだ。
 楽天には“田尾トラウマ”がある。人気監督をたった1年でクビにしたことがファンの反感を買い、翌年の観客動員数が減少したのだ。クライマックス・シリーズ出場を果たした場合、誰がノムさんの首に鈴を付けるのか……。

<この原稿は『週刊大衆』09年9月28日・10月5日号に掲載されたものです>

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