ヤブ医者の多い病院ほど儲かる―。医療界の人間からこう聞いたことがある。評判が悪くなって客足が落ちれば利益は減ると思っていたが、事はそう単純ではないらしい。本書はこう明かす。<腕のいい医者が治療して患者が早く退院すると、治療期間が短い分、請求できる医療費は少なくなる。一方、患者の回復が遅くて入院が長引くほど、医療費は高く請求できる>。そういう仕組みだったのか。
 日本人の死因の1位はガンである。トップは肺ガンだ。早期発見のために、まず何をすべきか。真っ先に思い浮かぶのがレントゲン検診である。ところがこれ、逆効果の疑いがあると著者は指摘する。<毎年定期的に肺ガンの検診を受けたグループと、もう一方は、肺ガンの検診を一切受けないグループの追跡調査をしたところ、肺ガン検診を受けたグループのほうの死亡率が高かったという調査結果が出た>。思わず「ウソだろ?」と声を出しそうになってしまった。後の説明を読んで納得したが、私たちは病気について、治療について、そのコストについて、あまりにも無知である。「賢い患者」の増加こそが医療技術の進歩を促すのだろう。 「医者が秘密にしておきたい病気の相場」( 富家 孝、伊藤 日出男著・青春新書・760円)

 2冊目は「転職は1億円損をする」(石渡 嶺司著・角川oneテーマ21・705円)。 「転職すれば成功すると思われがちだが、転職には大きなリスクが伴う。失敗談とデータを交え、危険性を指摘する。「転職は慎重に」。転職支援会社のコピーが重い。

 3冊目は「来るべき精神分析のプログラム」(十川 幸司著・講談社・1600円)。 精神分析の理論は19世紀末、フロイトにより生み出された。その根本は普遍的だが細部には耐用年数を過ぎた点があると著者は言う。精神分析の「更新」をはかった野心作。

<1〜3冊目は2008年10月22日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>


高級店と大衆店の違い示す

 4冊目は「寿司屋のカラクリ」(大久保 一彦 著・ちくま新書・700円) 。 寿司好きは日本人だけではない。米国やヨーロッパ、中国などでも今や日本文化の代名詞として親しまれている。
 しかし一口に寿司屋といってもサンダル履きで行ける回転寿司もあれば敷居の高い高級店もある。ネタも値段もピンからキリまである。
 では、高級店と大衆店の最大の違いはどこにあるのか。<高級店は、ネタが一番おいしく感じる状態で食べさせるのですが、大衆店は、お客の生活必需品、タレをさりげなくドボっとつけて食べさせているんです>。なるほど、言われてみれば、確かにそうだ。
 そこで大衆店の場合、<ドボっと醤油につけるわけですから、醤油に負けない脂分が必要になるのです。そうなると、近海のマグロよりはむしろ、ちょっとギトギトした脂のある>畜養マグロを使用することになる。そういう寸法だ。
 また寿司屋を選ぶにあたっては地下か2階の店がいいという。それには経営上の理由がある。人件費と家賃を抑制し、食材により多くの経費を割こうとすれば必然的にそうなるというのが著者の見立てだ。フードコンサルタントらしい視点が随所に散りばめられている。

 5冊目は「知的アスリートのためのスポーツコンディショニング新装版」(山本 利春 著・ベースボール・マガジン社・1800円)。 「一流選手は皆、自己管理の達人」。スポーツを行う上でのコンディションニングの基礎知識がまとめられている。怪我をしてからでは遅い。予防が肝心だ。

 6冊目は「蓮池流韓国語入門」(蓮池 薫 著・文春新書・760円)。 これはただの韓国語の入門書ではない。将軍様に対する労働新聞における文法を無視した尊敬語の羅列ひとつを例にとっても北朝鮮という国家のいびつさが理解できる。

<4〜6冊目は2008年11月12日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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