いよいよ3日からは代々木第一体育館(東京)で世界の王者、女王を決定するフィギュアスケートのファイナルグランプリが開催される。日本からは男子は織田信成と高橋大輔、女子は安藤美姫と鈴木明子が出場する。この大会で日本最上位のメダリストにはバンクーバー五輪代表が内定するだけに、注目が置かれている。同じスケートでもタイムできっちりと勝敗が分けられるスピードスケートとは異なり、審判の採点によって順位が決められるフィギュアスケート。今回はその歴史や国内事情、採点方法、さらにはバンクーバー五輪でのみどころに迫りたい。
 ひとくちにスケートとは言っても、スピードスケートとフィギュアスケートではその歩んできた歴史も目的も異なる。もともとは獣骨などを使ってつくられ、移動する手段だったスケートは、オランダで発展していく段階で2方向に分かれていく。農民階級の人々が運搬作業の効率を求めたものがスピードスケート、貴族階級の人々がカーブに乗って滑る「ダッチロール」を生み出し、芸術性を求めたものがフィギュアスケートの起源といわれている。ドイツやフランスではそれに音楽に乗せながら優雅に滑る芸術性が高められていった。しかし、同じヨーロッパでもイギリスでは、図形を描くための高い技術(正確性)が求められ、「図形」という意味の「フィギュア」という言葉が使われるようになった。

 1892年に初めて世界選手権が行われた際には大陸で行なわれていた音楽に合わせてスピンやジャンプなどを取り入れながら滑る「フリースケーティング」と、イギリスで行なわれていた図形を描く「コンパルソリーフィギュア」の両部門が採用されている。しかし、ジャンプやスピンのレベルが高まるにつれ、徐々にフリースケーティングに注目が置かれるようになったことから、コンパルソリーフィギュアの割合が減少。1992年以降は国際スケート連盟の競技会から姿を消した。

 一方、フリースケーティング自体も変化している。当初は読んで字のごとく、まさに自由でどんな技を取り入れるかの選択肢は選手に委ねられていた。しかし、自分の得意なジャンプばかりを繰り返すような単調な演技が多くなってきたため、ステップ、スピンをより重要視し、ジャンプの回数制限をするなど、一つに偏らないように構成された「ウェルバランスプログラム」がルール化された。

 また採点方法は、選手同士のレベルの均衡化により、単に技術点とプレゼンテーションの合計点を競う「6.0システム」では判定しづらくなり、要素一つ一つやプログラム構成の要素に点数が細かくつけられ、その合計点を競う「ISUジャッジング・システム」へと変更された。さらにこの採点方法では技の回数が多ければ多いほどポイントが積み上げられることになるため、ジャンプ、スピンの回数が制限されるようになった。

 財団法人日本スケート連盟・吉岡伸彦理事によれば「“ISUジャッジング・システム”でも、よりよい評価・判定ができるようにするため、細かい点が毎年のように変わっている。今シーズンから新たに加わったものとしては、技術要素の出来栄えを評価する際にも曲想に合っているか否かによって点数の加減が行なわれることが挙げられる。そのため、技術的に難しいことをやれば勝てるというよりは、難しいことをいかに音楽に合わせてやれるか、という方向になってきている」という。これまでも、技術の進歩する時代、技術の進歩が一段落して表現力を競う時代が交互にやってきた。今、世界のフィギュアスケートは難度の高い技術と、高い芸術性の双方に目が向けられているのだ。
(vol.2へつづく)

(斎藤寿子)
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