グランプリファイナルで織田信成、安藤美姫の出場が内定し、フィギュアスケートのバンクーバー冬季五輪出場枠は、男女それぞれ残り「2」となった。最後のチャンスとなるのが、25日から始まる全日本選手権だ。優勝すれば、自動的にバンクーバー行きが決定するが、残り1枠については同大会でのメダリストおよびファイナル進出者などを考慮し、日本スケート連盟が選出する。なかでも最も優勝への期待が大きいのがヒザの故障から復帰した高橋大輔だ。グランプリファイナルでは4回転を失敗し、5位に終わった高橋。しかし、完全復活への兆しははっきりと見えている。
「ここ何年かは、男子は4回転を跳ばない選手が世界チャンピオンになっているんですよ。リスクの大きい4回転を跳ばずに、プログラムの完成度を上げているんです」(財団法人日本スケート連盟・吉岡伸彦理事)
 先のGPファイナルでも優勝したエヴァン・ライサチェック(米国)をはじめとする3人のメダリストはいずれも4回転は跳んでいない。そんな中、高橋はあえてフリーで4回転に挑んだ。しかも前日のショートプログラムで1位となりながらも、だ。

「4回転を跳ぼうとするとそれ自体が選手にストレスを与える。その分、プログラムが乱れてしまう可能性もある。また、失敗すると3回転の成功で得られる得点も得られない」(吉岡理事)
それでも高橋が、守りに入らずに攻めたのはなぜか。その理由を吉岡理事はこう説明してくれた。

「今季から復帰したトリノ五輪金メダリストのエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)がロシア杯で4回転を鮮やかに決めて、しかもプログラムもきちんとまとめてきていました。ですから、バンクーバーで金メダルを狙うには4回転を跳ばざるを得なくなると思いますよ」
 つまり、高橋は既にバンクーバーでの金メダルを想定したプログラムにしているのだ。

 また、ルール上も高橋のような4回転を挑戦する選手にとっては救いの手が差しのべられている。実は、リスク回避のために高難度の技がなかなか出てこないことを懸念した国際スケート連盟は、今シーズンからジャンプの種類や難易度を判定するテクニカルパネルが回転不足であることをジャッジに伝える仕組みを廃止したのだ。これまではテクニカルパネルが回転不足だと判定すれば、ジャッジは必ずマイナスの評価をしなければならなかった。それがなくなった分、選手にとって高難度のジャンプに挑戦しやすくなっている。

 GPファイナルでは4回転の有無がはっきりと明暗を分けた。4回転を跳ばなかった3人がメダリストとなり、4回転にチャレンジした3人がいずれも失敗して表彰台を逃した。しかし、バンクーバーでは全く逆の結果もあり得る。

 ライバルの織田は前回大会の雪辱を果たし、早くもバンクーバー行きを決めている。果たして高橋は全日本選手権で出場権を獲得し、再び五輪の舞台に上がることができるのか。挑戦することを公言している4回転を成功させ、優勝での出場を決めて本番への弾みとしたいところだ。1週間後、バンクーバーの代表の座をかけた最後の戦いが幕を開ける。

(斎藤寿子)
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