日本シリーズ最終戦、スタメン9選手の年俸総額は巨人17億250万円、埼玉西武は5億5500万円(いずれも推定)。西武は巨人のおよそ3分の1。しかし最終戦に勝ち、シリーズを制したのは西武だった。
 昨季、5位のチームを就任1年目で日本一に導いたのだから、渡辺久信監督の手腕はどれだけ褒めても褒め足りない。シリーズ最終戦で同点のホームを踏んだ片岡易之は死球で出るなり二盗を決め、三塁からはリスク覚悟の“ギャンブルスタート”を決めた。失敗を恐れず、前向きに仕掛け続ける西武の選手たちは生き生きしていた。
 本の副題に<怒らないから選手は伸びる>とある。開幕早々、こんなことがあった。<選手に発破をかけたかったのでしょう。黒江透修ヘッドコーチが、やや叱るような口調で話し始めました。>これを渡辺は遮った。「今日は負けましたが、それで僕らがやってきたことをすべて否定するようなことはいわないでください」。黒江は渡辺の父親ほどの年齢である。思っていても口に出すのは容易ではない。選手への愛情と指揮官としての信念が新時代のリーダーの条件だと教えてくれる。 「寛容力」(渡辺 久信 著・講談社・1200円)

 2冊目は「デキる人は皆やっている一流の人脈術」(島田 昭彦 著・明日香出版社・1500円)。 「人脈を作る目的は、ズバリ、人生を豊かにすること」。人脈はカネでは買えない。自らを磨き、こまめに足を運ぶ。経験に裏打ちされたノウハウはビジネスにも生きる。

 3冊目は「石井訓」(石井 慧 著・光文社・1000円)。 柔道家からプロ格闘家に転向する石井慧には不器用過ぎるくらい不器用な男とのイメージがある。逆にいえば、それだけ純粋な男だということだ。関係者の談話が興味深い。

<1〜3冊目は2008年12月3日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>


山積みする諸問題にメス

 4冊目は「医療破綻」(中原 英臣、岡田 奈緒子 著・PHP研究所・1400円) 。「医師には社会的常識がかなり欠落している人が多い」。麻生太郎首相の失言は記憶に新しい。「日本中の医師を敵に回した」と言う者もいたが、大方の医師は呆れるか、「アンタには言われたくないよ」と聞き流していたのではないか。
 国民の一人として愕然としたのは、こういうトップの下で「医療破綻」に対応できるのかということだ。医師不足、疲弊する地域医療、増え続ける医療費、そして揺らぐ国民皆保険制度…。どの改革も待ったなしのところにきている。<医療破綻が医療不信を生み、医療不信の増大が医療破綻を促進するという、負の連鎖が問題なのです>。著者はこう説く。
 たとえば、この国では医師免許をとったばかりの研修医も、経験を積んだ名医も診察料はまったく同じである。果たして、それは正しいのか。
 あるいは世界最長といわれる入院日数(白内障の場合、諸外国平均が1・8日であるのに対し、日本は8・3日)。これが勤務医の過重労働の一因であるとみることはできないのか。
 山積する医療に関する諸問題がコンパクトにまとめられている。正月休みに読んでおきたい。

 5冊目は「宇津木魂」(宇津木 妙子 著・文春新書・740円)。 北京五輪で金メダルに輝いたソフトボール。斎藤春香監督は「宇津木さんのリーダーシップを引き継いだ」と語る。金メダルの礎を築いた女性指揮官の熱血リーダー論。

 6冊目は「90切りたきゃ、ボールは打つな!」(麻季 れい子 著・ベースボールマガジン社・800円)。 ゴルフ上達にはシャドースイングが最適と説く。筋肉を正しく使ったスイングと、そのためのストレッチ&トレーニング法を身体機能学の専門家が伝授。

<4〜6冊目は2008年12月24日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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