近年、ブームともいえる広がりを見せるマラソン。東京マラソンを筆頭に、国内マラソン大会はどこも盛況。皇居周辺や大阪城など、都会のランニングスポットは渋滞さえしてしまう勢いだ。そのマラソンブームの元祖といえばホノルルマラソン。つい10数年前までは初心者のマラソンチャレンジといえば「ホノルル」と決まっていた。そのホノルルマラソンも今年で37回目。日本人参加者が半数以上を占める海外マラソンとして、独特の歴史を築いてきたが、ここ数年は確実に変化の兆しが見受けられる。
(写真:朝5時、暗い中でのスタート)
 5年ほど前までのホノルルは、とりあえずマラソンにチャレンジする人のためのもの。大会というより、マラソンのイベントという感じだった。コース上を見ても、普段からランニングをしている雰囲気のしない人が多く、大会に向けた準備などほど遠い参加者がうようよしていた。「卒業記念に皆で走りに来ました」的な参加者や、「まあ一度くらいはホノルルマラソンを」というような、いわば記念受験的な感じだったのだ。当然、記録も悲惨な状態で、8時間以上かけて走る、いや歩く参加者が目についた。
(写真:花火の中をスタートしていく参加者)

 ところがここ数年、確実にこの手の参加者が減ってきた。相変わらず参加年齢のボリュームゾーンは男子35−39歳、女子25−29歳で、国内大会よりもかなり若い(2009年データ)。しかし、その若年層の様子が変わってきた。皆、ちゃんと走る格好をしているのである。また、臨む姿勢も一昔前とは異なり、ちゃんと準備してきている人が多い。私がコース上であったあるグループは、小学校の同級生と先生が、20歳を迎えた記念に走っているという。ここまでは良くあるパターンだが、そのために皆ちゃんと練習しているのだ。彼女たちは5時間そこそこでしっかり完走。これが現代のスタイルなのだと感心させられた。
(写真:人、ひと、ヒト。今年は2万4000人がスタートした)

 最近、国内マラソン関係者と話すと、近年の大会において完走タイムのボリュームゾーンが落ちてきているという。初心者が増えた影響であると思われるが、その結果、途中で参加者が走れなくなるようなトラブルも増えているそうだ。すそ野の広がりが、参加者のレベルを薄めているということになるのだろう。管理する主催者側は大変だが、初心者の増加は愛好者が広がっている証なので、関係者としては喜ばしいことなのかもしれない。
(写真:朝日の中を走る)

 しかし、ホノルルはすそ野が広がった影響で、逆にレベルがボトムアップされる傾向にある。昔より8時間以上かけて走る(歩く?)完走者の割合が減少傾向にあり、ちゃんと走る人が増えているのである。昔のレベルが低すぎたといえばそれまでだが、ちゃんと走る人が増えたというのは大会として喜ばしいことであろう。
(写真:日本にはない青空の下で走るのも魅力)

 また、女子の参加者が男子を超えているというのも驚くべきことだ。通常、国内大会での男女比は男子8:女子2というのが通例で、大会によっては女子が1割なんて大会もある。国内でも最近、女子の参加率は上がりつつあるが、もともと女子率の高いホノルルではとうとう女子参加者数が男子を抜いてしまった。抽選で比率をコントロールしている大会はともかく、申し込み者をすべて受け入れているような国内大会ではありえない話で、ホノルルへの根強い女性人気を物語っている。そして、彼女たちは確実にレベルを上げ、強くなっているのだ。
(写真:若い女性が多いのもホノルルの特徴)

 日本人が初めてホノルルマラソンに参加したのが1976年の第4回大会。それから33年が経過し、大会も参加者も様変わりしてきた。特にここ数年の変化は好ましい方向と言えるだろう。
 さて、このランニングブームが終わった後、ホノルルはどんな変化をみせているのか。ブームに左右されない、本当のランニングイベントに落ち着いていることを期待したい。
(写真:憧れのゴールまであと一息)


白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。
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