現ファイターズ2軍投手コーチの吉井理人は5年間、メジャーリーグでプレーし、通算32勝(47敗)をあげた。メジャーリーグではメッツ、ロッキーズ、エクスポズ(現ナショナルズ)と、いずれもナショナル・リーグの球団に所属した。
 5月中旬から6月にかけてインターリーグ(交流戦)が行なわれる。吉井が最も苦手としたのがヤンキースである。戦績は0勝2敗。ブルペンでは調子が良くても、なぜかマウンドに上がると失速した。
 ある日、吉井はブルペンとマウンドの傾斜の角度が違うことに気が付いた。ブルペンよりもマウンドの方が傾斜の角度が深くなっていたのだ。
「それを忘れていると着地した左足(右ピッチャーの場合)が“カラ足”を踏むような感覚になり、抜けてしまうんです」
 そして冗談とも本気ともつかぬ口調でこう続けた。
「これは作戦やと思います。ヤンキースはそういう小細工が好きですからね」
 今から9年前の話だ。オールドヤンキー・スタジアムから新ヤンキー・スタジアムに本拠地を移した今も、グランドには“仕掛け”があるのだろうか。

 日本人投手としては野茂英雄に次ぐ通算51勝をあげている大家友和も気になることを言っていた。
「8年前までレッズが本拠地にしていたリバーフロント・スタジアムはブルペンのプレートかがちょっとズレていました。9年間に渡って監督を務めたスパーキー・アンダーソンの“作戦”だったかもしれません」
 また2003年に移転したグレート・アメリカン・ボール・パークでは球場のマウンドよりもブルペンの方が高く、試合の前半はボールが上ずって仕方なかったという。これも“作戦”のひとつだったのか。

 興行面を考えれば本拠地での勝利は必須条件。敵を欺くためのあの手この手も企業努力のひとつと考えれば、苦笑いですませるしかあるまい。

<この原稿は「週刊ダイヤモンド」2010年4月3日号に掲載されました>
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