開幕から約1カ月で6勝3敗の首位。成績だけみれば、まずまずの戦いができています。特に野手はケガ人も出る中、代役で出た選手がうまくカバーし、チーム力が高まっているのを感じます。一方、ピッチャーは力のある数人に頼らなくてはいけない現状です。控え投手にも可能な限りチャンスを与えたいのですが、接戦が多く、なかなかレベルアップの機会がありません。
 新戦力の投手で予想以上に実戦向きだったのは、右腕の今村圭佑(福岡経済大)です。トライアウトでみたときには荒れ球で時間がかかる印象を受けましたが、新チームとして合流した時点では制球がまとまっていました。バッターに対しても恐れずストレートを投げ込めるため、開幕から先発2番手として起用しています。

 20日に行った阪神2軍との交流試合にも先発して3回1失点。チェンジアップやスライダーといった変化球を投げる際に腕が緩むため、NPBクラスのバッターには対応されてしまいます。独立リーグでは2勝0敗と結果を残しているとはいえ、レベルの違いを肌で痛感したことでしょう。

 ただ3回、2死2塁のピンチで橋本良平をインコースで詰まらせた投球には光るものを感じました。こうすればバッターを打ち取れるという自信がついたのではないでしょうか。シーズンを通じての成長に期待しています。

 投手陣の柱は昨年も在籍した西川徹哉です。初めて見た時からスライダーは充分、NPBでも通用すると思いました。しかし、四国・九州アイランドリーグ時代、最多勝に輝いた右腕にしてはコントロールがよくありません。20日に行った阪神2軍との交流試合でも力んで抜ける球が多く見られました。本人に聞くと「もともとコントロールはアバウトだった」とのこと。決して上背は大きくなく、球威があるタイプでもないため、上を目指すために制球力は必須です。

 それから中2日で投げた23日のコリア・ヘチ戦では、中盤以降、ほぼ狙い通りのボールが放れていました。おそらく肩が張っている状態で、余分な力が抜けたのでしょう。日頃から力の入れ具合を調整できれば、もっとコントロールよく投げられるはずです。おそらくNPBに行けば、西川のような投手は中継ぎに回されるはずです。そのためにもシーズン中のどこかで、彼にはリリーフかクローザーを経験してもらいたいとの気持ちがあります。となると代わりに先発を務める“第3の男”の存在が重要です。

 当初、先発3番手として考えていたのはアイランドリーグ、BCリーグでも経験のある前田真宏です。ところが、11日のコリア戦では負け投手になり、結果を残せませんでした。次に先発を任せたのが崔康翼(チェ・カンイク)です。17日のコリア戦では、緩急をうまく使って試合をつくりました。ストレートは130キロ台とやや物足りないものの、カーブ、スライダー、チェンジアップと変化球はひととおり投げられます。

 これはゴールデンウィークの連戦で使える。そう思った矢先、アクシデントが起こりました。彼が肩の違和感を訴えてきたのです。当然、次回登板は白紙に戻り、また新たな先発候補を探さなくてはならなくなりました。

 いずれにしても5月は連休を中心に試合が数多く組まれています。西川は中4日でフル回転してもらうつもりですが、それでも頭数は足りません。これまで登板機会のなかった投手もマウンドに立つ場面が増えてくるでしょう。その中でチャンスをつかむ人間が出てくるのか。こればかりは僕もまったく分かりません。ファンの皆さんも新戦力の台頭を楽しみにしながら、球場へ足を運んでいただければと思っています。


池内豊(いけうち・ゆたか)プロフィール>:神戸9クルーズ監督
1952年4月7日、香川県出身。志度商高(現・志度高)から、71年ドラフト4位で南海へ入団。75年に江夏豊らとのトレードの交換要員として、江本孟紀、島野育夫たちと阪神に移籍する。阪神ではサイドスローから内にくいこむシュートを武器にリリーフとして活躍。82年には当時のセ・リーグタイ記録となる72試合に登板するなど、8年連続で30試合以上のマウンドに上がった。85年、長崎啓二とのトレードで大洋に移籍。翌年は阪急に在籍して、86年限りで引退した。その後は阪急(オリックス)、中日、韓国の起亜タイガースで投手コーチ、打撃投手、スコアラーなどを歴任。現職は元南海の門田博光氏が顧問を務めるホークスドリーム社の営業部長を務めている。2010シーズンより神戸の監督に就任。現役時代の通算成績は452試合、31勝31敗30セーブ、防御率3.92。
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