リーグが開幕して、早いもので3カ月近くが経ちました。新規参入チームの大変さは覚悟していたつもりでしたが、予想以上に四苦八苦しています。選手育成にしても、球団運営にしても、どうしても準備不足でスタートした部分は否めません。それゆえにおもしろいところもあるのですが、やはり苦労のほうが先にきてしまいます。
 それでも試合はやってきます。限られた戦力の中で泥まみれになってでも戦っていかなくてはいけません。先週末からは四国・九州アイランドリーグとの交流戦で四国をまわってきました。結果は1分2敗。トータルでも4勝11敗1分と大きく負け越しています。正直、個々の選手の能力だけを比較すれば、アイランドリーグと大きな差は感じません。アイランドリーグにもずば抜けてスゴイ投手はおらず、スピードもコントロールも変化球もそこそこ。ただ、チームとしての戦い方にはアイランドリーグに一日の長があります。三重の選手は経験がないため、試合の前から圧倒されているような感じです。

 負け越しが続く中、投手陣で気を吐いているのは、左腕の洪成溶でしょう。ここまで6勝3敗1Sと結果を残しています。彼は韓国出身とあって、日本人と比べて気が強いピッチャーです。スピードは決して速くないですが、コントロールがまずまずで大崩れしません。ただ、サイド気味のフォームだったため、ボールに角度がつかないのが気になっていました。

 そこでスリークォーターに腕をあげ、かつ肩の線からヒジを下げないよう修正をしました。ヒジを下げた状態で力任せに投げてもいいボールは来ませんし、故障の原因にもなります。サウスポーというだけでも希少価値があるのですから、ヒジを上げて腕のしなりを使うことで、もっと打者に嫌がられるタイプになるはずです。変化球の精度を高めたり、まだまだ課題はあるものの、ひとつひとつクリアしていけばNPBには一番近いとみています。

 また先日は関西独立リーグの紀州レンジャーズから末永仁志が入団しました。早速、21日の愛媛マンダリンパイレーツ戦に先発し、9回1失点。打線の援護がなく勝ち星こそつかなかったものの、頼もしい右腕が来てくれました。やはり彼はロッテに3年間在籍していただけあって、投球術を心得ています。愛媛の選手に対しても見下ろして投げていました。

 彼がロッテを戦力外になった原因にはヒジの故障もあったと聞いています。それだけに再発が心配ですが、球速は140キロ前後出ていました。荒れ球でも抑えられる力は備えているのではないでしょうか。何よりNPBの恵まれた環境を一度味わっているだけに、「もう一度戻りたい」という意欲がひしひしと伝わってきます。まだ23歳ですから、チャンスはあります。今後は洪、末永の2人を中心としたチームになっていくことでしょう。

 野手ではショートの宮田良祐(NOMOベースボールクラブ)がおもしろい存在です。打撃でも主にトップバッターとしてチーム1の打率を残しています。決してパワーはありませんが、走攻守のバランスがとれており、NPBの育成選手クラスの能力は持っています。まだ線が細いですから、試合、練習の中で鍛えればドラフト指名の可能性も出てくるはずです。

 生まれて間もないチームとはいえ、先日は中日2軍と交流試合を実施することができました。今度は阪神2軍とも試合を行う予定です。NPBのスカウトも結構、球場に足を運んでいただいています。NPBとの距離が近い点は独立リーグの強みです。これをプラスに、選手たちには自分を売り込んでほしいと感じています。

 勝負はここからです。アマチュアで長期のリーグ戦を体験していない人間にとって、この夏場は非常につらい時期になるでしょう。試合と移動で体力が消耗する上、夜は蒸し暑くて寝られない、しかも雨で試合が流れることも多く、調整が難しい……。私も現役時代は梅雨時が一番イヤでした。しかし、好きな野球をやっているのですから贅沢は言えません。この環境でタフになることが、上に行くための第一歩です。選手たちには食事、睡眠をしっかり摂って、この暑さを乗り切ってほしいと思っています。


松岡弘(まつおか・ひろむ)プロフィール>: 三重スリーアローズ監督
1947年7月26日、岡山県出身。倉敷商高、三菱重工水島を経て68年、ドラフト5位でサンケイ(現東京ヤクルト)に入団。2年目からローテーション投手に定着し、速球を武器にチームの主力投手として活躍した。71年から6年連続で2ケタ勝利をマークすると、78年には16勝11敗2セーブの成績で球団初のリーグ優勝、日本一に貢献。沢村賞を受賞した。80年には防御率2.35でタイトルを獲得。85年限りで引退後はヤクルトの投手コーチ、野球解説者を務めた。現役時代の通算成績は660試合、191勝190敗41セーブ、2008奪三振、防御率3.33。06年からは社会人クラブチームの西多摩倶楽部で指揮を執った。
◎バックナンバーはこちらから