民主党の代表選挙は報道されているように、菅直人首相と小沢一郎前幹事長の一騎打ちになりそうな情勢です。個人的には選挙戦になったことは良かったと考えています。何より民主主義の根幹は選挙で代表者を決めること。代表選は党で決められた手続きなのですから、談合のような形で一本化することは良くないと感じていました。
 政権与党のトップは言うまでもなく、総理大臣になる人物です。かつて自民党は政権党時代、総裁選を利用して、その存在をアピールしていました。選挙戦を通じて各候補者が政策を訴え、各派閥がその力関係を誇示する中で、良くも悪くも日本を動かしてきたのです。近年では小泉純一郎元首相のように、総裁選で世論を味方につけ、長期政権をつくったケースもあります。劇場型政治には問題があるとはいえ、いかにメディアを使って情報発信するかも政治の大切な役割です。

 昨夏の政権交代から約1年。政権運営をする間に、皆さんとお約束したマニフェストと現実のズレが表面化してきました。それらにどう対応すべきか。この点は党内にもさまざまな意見があります。ただ、今まではそれらを集約する場がなく、トップの発言に僕たち与党議員までもが引きずられる結果になっていました。国民のみなさんには、それが迷走しているように映ったのではないでしょうか。

 今回の代表選を通じた論戦で、菅首相、小沢前幹事長の政策的な違いは明確になるはずです。そして各議員や党員、サポーターがどちらの方向性に沿って政治を進めるべきか、意思表示をする形になります。これにより政権の目指す道は以前よりもはっきりするでしょう。改革のスピードは上がるのではないかと思っています。

 もちろん円高株安など経済も不透明な状況で、「内輪で揉めている場合か?」との批判は充分、理解できます。もし菅首相が敗れれば、約1年間で3人目の首相誕生となり、「また首のすげ替えか?」との声が出ることも明らかです。しかし、そんな消極的理由で代表選も行えないようでは、どちらにしても政権運営は行き詰ってしまいます。国民のみなさんには、今回の選挙を政治をより前へ進めるためのものだと捉えていただければうれしいです。僕も日本を良くするために、誰をリーダーにすべきか真剣に考えて1票を投じるつもりです。

 さて専門のスポーツ政策では、この夏、大きな動きがありました。スポーツ政策の基本的方向性を示す「スポーツ立国戦略」が文部科学省によって取りまとめられ、公表されたのです。このプランに基づき、今後は懸案となっているスポーツ基本法の制定や、個別政策の実施に向けて、動き出すことになります。日本には今まで、このようなスポーツ政策のグランドデザインはありませんでした。その意味では我が国のスポーツ界にとって、今回の立国戦略策定は大きな一歩です。

 スポーツ立国戦略では5つの重点戦略を掲げています。
1.ライフステージに応じたスポーツ機会の創造
2.世界で競い合うトップアスリートの育成・強化
3.スポーツ界の連携・協働による「好循環」の創出
4.スポーツ界における透明性や公平・公正性の向上
5.社会全体でスポーツを支える基盤の整備


 注目していただきたいのは、重点項目の最初に「ライフステージに応じたスポーツ機会の創造」を設けている点です。その主な施策としては「総合型地域スポーツクラブを中心とした地域スポーツ環境の整備」が真っ先に挙げられています。ここにはスポーツが単にトップアスリートのものではなく、国民全体の文化であるとの理念が反映されているのです。スポーツ界を底辺から広げて発展させていきたい。たかが項目の順番と言われるかもしれませんが、そんな願いが込められています。これは過去のスポーツ政策ではあまり重視されてこなかった考え方です。

 また「障害者スポーツとの連携強化」の項目では、厚生労働省との連携についても触れられています。障害者アスリートによるナショナルトレーニングセンター利用など、スポーツ政策においても、縦割り行政の弊害が生じていることは何度も指摘してきました。縦割り行政の打破はスポーツのみならず、他のあらゆる分野においても大きな課題です。先日は民主党のスポーツ議員連盟の会合にも、文科省のみならず厚労省の担当者が参加していました。小さなことですが、これは政権交代の成果です。スポーツ政策は省庁横断の一里塚となる可能性を大いに秘めています。
 
 あくまでも、この立国戦略はグランドデザインですから、細かい部分をどうするかはこれからです。たとえば「今後の夏季・冬季オリンピック競技大会について、それぞれ過去最多(夏季37(アテネ)、冬季10(長野))を超えるメダル数の獲得を目指す」との目標に対して、国民体育大会をどう扱うかはひとつの検討議題となるでしょう。なぜなら現状の国体は必ずしも五輪競技とリンクしていないからです。たとえば、ロンドン五輪からは正式競技から除外される野球は国体では実施されています。対して五輪競技のビーチバレーは国体では行われません。このような“ねじれ”現象をいかに捉え、国体をどのような場とするのか。大会開催の是非も含めて、考えなくてはいけない時期がきています。

 民主党では先の参議院選挙で当選した柔道女子金メダリストの谷亮子さんがスポーツ議連の会長となり、新体制でこの立国戦略を推進していくことになりました。議員になって間もない谷さんの会長就任には党内でも賛否両論があります。「スポーツ政策を前進させるには、現場を知っているアスリートが一番」「会長はトップとして他の政党や団体と折衝をしなくてはいけない。1年生議員では難しい」「1年生だから要職が務まらないというのは理由にならない」「“お飾り”とのレッテルを貼られると損ではないか」。どの意見も的を射ており、間違ってはいません。

 ただ、個人的な思いを言わせてもらえば、誰が会長であろうと事務局長であろうと、それ自体はさほど重大な問題ではないはずです。民主党のスローガンになぞらえれば「スポーツの発展が第一」。どのような体制であっても、スポーツ政策が進展すれば、それでよいと思っています。悲しいかな、スポーツ議連には100人近い仲間がいますが、実際に国会でスポーツについて質問される方は多くありません。ありがたいことに今回の会長選任にあたっては「友近君が一番熱心にやっているんだから、君がやったらどうか」とのお話もいただきました。でも、僕はポジションにはこだわらないタイプ。サッカー同様、チャンスがくればオーバーラップしてでもゴールは狙えます(笑)。

 それなのに役職やスタイルに必要以上にこだわるのは、永田町の悪いところです。スポーツ同様、政治もチーム一丸にならなければ、成果はあがりません。谷会長に決定した以上、その是非をうんぬんするより、いかに彼女の下で政策を実現していくかに知恵を絞った方が建設的ではないでしょうか? 今回の代表選もメディアでは民主党の分裂や内紛といった話題が盛んに取り上げられています。もし選挙結果が不満だからといって、党が割れる事態になれば、何のための政権交代だったのか分からなくなるでしょう。代表選が終われば、すべてはノーサイド。以降は全員プレーで国民生活のためにすべての力を結集する。そんなスポーツマンシップあふれる代表選にしたいと強く感じています。


友近聡朗(ともちか・としろう):参議院議員
 1975年4月24日、愛媛県出身。南宇和高時代は全国高校サッカー選手権大会で2年時にベスト8入りを果たす。早稲田大学を卒業後、単身ドイツへ。SVGゲッティンゲンなどでプレーし、地域に密着したサッカークラブに感動する。帰国後は愛媛FCの中心選手として活躍し、06年にはJ2昇格を達成した。この年限りで現役を引退。愛称はズーパー(独語でsuperの意)。07年夏の参院選愛媛選挙区に出馬し、初当選を果たした。
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