ACミランのパトといえば、2014年ブラジルW杯でセレソンのエース候補と呼ばれている。切れのあるドリブルと王国仕込みのテクニックはセリエAの中でも際立っている。
 そのパトに仕事らしい仕事をさせなかったのだから日本代表DF長友佑都の評価が上がるのも当然だ。

 9月11日、長友の所属するチェゼーナは7年ぶりのスクデット獲得を目指すACミランを2対0で破り、今季初勝利をあげた。
「パトは世界レベルの速さを持っているので、飛び込みすぎないことを意識した。ああいう選手とやれて、一瞬一瞬が価値ある経験。もっと成長できる確信を持っている」

 エース殺し――。長友にはそんな言葉を贈りたい。
 南アW杯、勝ち点3を奪った緒戦のカメルーン戦ではサミュエル・エトー、2戦目のオランダ戦ではディルク・カイト。そして3対1と大勝した3戦目のデンマーク戦ではデニス・ロンメダールと、いずれも各国のエース級を封じた。
 南アフリカで得た自信がイタリアで確信に変わりつつあるようだ。このゲームを観戦した日本代表監督のアルベルト・ザッケローニも「よくやった」と長友のプレーに二重丸をつけた。

 周知のようにこの長友、身長170センチと体格的には決して恵まれているわけではない。驚くほどのテクニックを持っているわけでもない。自らの弱点を血の滲むような努力で克服した。
「誰にも負けない体を作ろうと思って筋トレを始めた。チームメイトから“オマエ、やり過ぎだろ”と言われるくらいにね」

 日本代表MFとしてオフトジャパン時代に活躍した森保一(現新潟ヘッドコーチ)は「日本にはジュニアユースやユース時代“天才”と呼ばれるプレーヤーが多いが、大体は“天才もどき”。向上心のある選手が最後には生き残る」と語っていた。
 セリエでの長友の活躍はそのことを物語っている。

<この原稿は2010年10月4日付『週刊大衆』に掲載されたものです>

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